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神経性無食欲症の看護過程、看護計画(OP、TP、EP)のための必要な情報収集(観察項目)とアセスメント、主な看護計画と看護問題に対する成果目標達成のための具体策例

 

 

本記事の内容

 

 

 

 

神経性無食欲症の患者の看護に必要な情報(観察項目)とアセスメント

1.患者背景

①生活背景

 (補足) 両親の不和や過保護・過干渉などの家庭環境の問題により、成育歴のなかで他者に認められたいという強迫的な性格傾向、情緒不安定、自己否定、同性の親に対する嫌悪感などが根底にあることが多い。自己肯定感もてない状況のなかで対人関係の偏りや事故のボディイメージに対する強迫的な歪みが生じる事がある。”短期的に食事を摂取することが出来た”、”体重が増えた”という現実だけでなく、回復過程をたどるためには、患者背景は無視することが出来ない視点であり、根底にある生きづらさからの回復が重要な鍵となる。

 

②現病歴

 ・周産期の障害

 ・体重変動と症状の変化

 ・摂食パターン

 ・嘔吐の下剤の乱用

 ・体重、食事に対する患者の希望や考え方

 

 

 

2.全身状態

①栄養状態

 ・食事摂取状況

 ・標準体重の85%以下

 ・BMI(17.5%以下)

 ・全身状態(貧血、低血圧、低タンパク血症、腎障害、肝障害、皮膚や電解質の異常、無月経、脳の変化による意識の障害、骨粗鬆症、便秘など)

 (補足) 入院初期は、極度の低栄養状態、低血糖などにより、生命の危機にさらされていることもある。また、このような状況にあっても、患者は疾患や現状を正しく認識していない。生命を維持する為に、栄養管理ができているか把握する。
 (補足) 入院治療において全身状態と合併症の管理を行い、生命の維持を図ることが最優先される。また、長期間食行動上の問題が続くことにより、無月経や脳・骨などの二次的な障害が強くなることにより、その後のQOLにも影響を及ぼす。

 

#A 食事を摂取出来ないことに関連した栄養摂取消費バランス異常:必要量以下

 

 

②排泄状態

 (補足) これまでのエピソード、方法、食事摂取状況、食後のトイレ移動の有無などを把握する。必要時、食後は移動せず座位尾をとって過ごす時間を設ける。

 

③排出行動

④検査データ

 (根拠) 鑑別診断としては、糖尿病、アジソン病などの疾患のほか、慢性的な副腎皮質の破壊・萎縮による副腎皮質ステロイド分泌不全、食欲不振、食行動や体重・体型に対する問題は見観察されない。精神疾患による抑うつ状態、妄想などにより、拒食・過食症状が出現することもある。

 

⑤治療

 ・身体的ケア

 ・行動制限療法

 ・薬物療法

 ・精神療法

 ・家族療法

 (補足) 不安、抑うつ状態、怒り、拒否など様々な精神症状の出現が予測され、薬物療法と精神療法を併用しながら対処していく。入院期間中に根底にある問題解決には限界がある。患者には病識がないことも多い為、治療を受け入れることが出来るように働きかける。

 


3.活動と休息のバランス

 行動制限療法が開始されると、目標体重に向かって努力し始めるが、肥満に対する恐怖心は残存している。そのため、体重の増加に対して、動揺することも、少なくない。治療や入院に対する不満が繰り返されたり、隠れて運動・長時間の入浴などエネルギーを消費しようとすることもある。その都度、不満を聴きながら治療の必要性について説明していく。

 

①日常生活での活動状況

 ・活動の亢進

 ・行動制限の理解

 ・入院前の活動状況

 (補足) 極度の体重減少状態から、もう動く気力・体力もないのではないのかと思えるほどである。しかし、患者は低血糖性昏睡に至る直前まで、意図的に活発な活動を維持していることが多い。これは、強い痩せ願望から『エネルギーを消費しなければならない』という強迫的な行動ともとることが出来る。行動制限療法の開始後も、隠れて極度の運動を繰り返すことがある。支持的に関わりながら、納得して治療を受けているかを把握していく。

 

 

 

4.知覚と認知の状態

①病態・疾患についての知識

 ・ボディイメージの

 ・食事の自己コントロール

 ・治療の理解

 (補足) 入院初期は、病識も無く周囲の勧めで納得のいかないまま入院してくることが多い。患者が安心して気持ちを表現できる環境作りと、治療の必要性を繰り返し説明しながら、患者ー看護師関係を築くための援助が必要である。
 
 (補足) 食行動にも様々なパターンがあるが、患者自身では食事摂取の調整が出来ない状態となっている。しかし、肥満に対する恐怖感や認知の歪みがあるため、体重が激減しても満足できないこともある。現状の認知や行動パターンを確認し、治療の受け入れ状況を把握する。

 

#B 自己知覚と価値観の葛藤に関連した防衛的コーピング

 


②心理状態

 ・食事摂取

 ・太る事への不安と恐怖心

 ・ストレス耐性

 ・ストレスコーピング

 (補足) 患者が感じているボディイメージと周囲の人たちが感じているそれには、大きな差が生じている。これは価値観の違いともいえるが、病的な認知の歪みである。本人は、骨と皮の状態にであっても、さらに痩せなければと感じていることが多い。

 (補足) また、きっかけは軽い気持ちのダイエットであったが、そいの行為が強迫的となり、気付いた時には、自己コントロール出来ない状態になっている。過食と排出行動を繰り返している場合は、自我違和感的な感覚をもち、治療に乗りやすい傾向にある。

 

#C 知覚的因子に関連したボディイメージ混乱

 

 

5.周囲の認識と理解

①家庭環境と家族関係

 ・成育歴と性格

 (補足) 入院環境は、守られた環境であり、根本的な問題解決にはならない。退院後の環境はなんら変わっていないことを考えたとき、その人の生きづらさを改善する為の方法、キーパーソンとなる家族の支援も重要である。社会資源としての当事者・家族の自助グループの活用も視野に入れる。

 

②対人関係と社会的役割

 (補足) 社会生活の中で何らかの生きづらさを感じ、その対処行動として、食行動上の問題が生じている。生きづらさとしては、理解されないことの孤独、不安、怒り、自己嫌悪、依存、成熟拒否、承認欲求などがあり、周囲の人の理解と協力や、これまでの対人関係パターンの変更など、状況を把握する。

 (補足) 看護師は行動上の問題に着目しがちであるが、患者が安心して食事が出来る団欒とした雰囲気や、感情表出、楽しい関係性を築けるような環境を調整することも必要である。

 

 

 

神経性無食欲症の患者の主な看護診断と患者の目標(成果目標)

 

#A 食事を摂取出来ないことに関連した栄養摂取/消費バランス

患者の目標(成果目標)

・食事摂取、体重に対する思いを言葉にすることが出来る。

・治療の必要性や現在の状態に看護師と相談することが出来る。

・入院中の目標を決定し、実施することが出来る。

・治療を受け入れ、栄養状態の改善をすることが出来る。

 


#B 自己知覚と価値観の葛藤に関連した防衛的コーピング

患者の目標(成果目標)

・これまでの社会生活、家族関係、交友関係などについて看護師を振り返ることが出来る。

・病棟行事やレクリエーションなどに参加し、他者との交流をもち、楽しい時間を過ごすことが出来る。

・一人で抱え込まず、他者に援助を求めることが出来る。

 

 

#C 知覚的因子に関連したボディイメージ混乱

患者の目標(成果目標)

・治療による体重増加の思いを言語化する事が出来る。

・安定した状態で治療に専念することが出来る。

 

 

 


神経性無食欲症の看護計画

#A に対する観察計画 ( OP )

(1)一般所見(栄養状態の程度)

①バイタルサイン

 ・体温

 ・脈拍

 ・血圧

 ・体重

 ・BMI

 ・皮膚の乾燥

 

②貧血

 ・WAC

 ・Hb

 ・Ht

 

③栄養状態

 ・TP

 ・Alb

 (根拠) 低栄養状態が持続することにより、脳、循環器、呼吸器、腎、肝、消化器系の障害など、生命危機につながる。

 

 (根拠) WHOでは、BMI17.5以下、標準体重の85%以下で著しい痩せ状態であるとしている。

 


④腎機能

・BUN

・UN

・Cr

 

⑤肝機能

・AST

・ALT

 

⑥電解質

 


(2)食事摂取状況

 ①量、時間、表情、態度、言語

 ②排出行動の有無

 (根拠) 患者ー看護師関係が構築されていれば、患者の不満を確認し、対処していくことが出来る。しかし、拒否的な言動がないまま、隠れて拒食や排出行動、過剰な運動を繰り返していることもある。

 

(3)活動量・休息時間

 

(4)入院や治療に対する訴え

 ①入院治療の受け入れ

 ②医療者に対する言動

 (補足) 食事摂取の説得や強制は逆効果である。患者が安定した状態で治療出来るように働きかける。治療方針によっては、一回の食事摂取量を計算し、時間をかけても必要量を摂取するように指導することによって、食事を習慣化出来ることもある。

 

(5)体重増加に対する反応

 ①ボディイメージに対する知覚

 (根拠) 神経性無食欲症はボディイメージに対する認知の歪みがある。。そのため、体重増加に対して恐怖を感じていることがある。病識が無く、治療に対して拒否的になることもある。治療の導入及び、医療者との関係形成は、予後に影響を与える。

 

 

 


#A に対する看護ケア計画 ( TP )

(1)入院治療の理解に対する支援

①入院知慮の必要性について説明し、患者の思いを傾聴する。

・病気であるという認識が出来るように支援する。

 (根拠) 神経性無食欲症の特徴として、病識の乏しさがある。治療の継続や、ボディイメージの改善のためには、初期の出会いの位相においては、関係構築が重要である。

 

②拒否や否定的な感情に対しては、支持的・受容的態度で傾聴する。

 

③患者の言動に対しては、価値観を否定せずに受容し、看護師の思いを伝えながら一緒に考えるようにする。

 (補足) 患者自身が感じている認知をありのままに受け止め、患者ー医療者関係を築くことが出来るように取り組む。

 

④治療拒否に対しては、患者を含めたチームでの話し合いの機会を持つ。

 (補足) 患者が混乱することが無いように、チームで統一した方向性を決定しておく。

 

 (根拠) 周囲の否定的な対応の積み重ねにより、自己評価が低く、対人関係に生きづらさを感じている場合が多い。安心し自己表現できる環境を整えることが、認知の改善にもつながる。

 

⑤患者が思いを表現できていいる事を承認し、成長していることや、看護師として嬉しい気持ちを伝えていく。
 (補足) 承認と褒賞を繰り返しながら、自信をもてるようにする。

 

⑥「元気になりたい」ということを動機づけにして、治療方針を踏まえて患者の入院目標を決める。

 

 


(2)食事と体重認知に対する支援

①食事摂取に対する思いを確認する

 (根拠) 食事摂取や体重増加に対する他者の意見を聞いたり、自身の思いを表出することで問題を顕在化することが出来る。

 

②看護師が感じている食事に関する楽しみを伝え、患者の感想を聴く。

 (補足) 患者は、家庭において家族に繰り返し食べるように説得されている。入院環境でも一方的な治療を押し付けられることは、効果的な看護とは言えない。治療の必要性や看護師自身の患者に対する思いを投げかけながら、双方向的なやりとりを進めていく。

③体重が増加してくる思いについて確認する

④時間をかけても食事摂取が出来るように、必要時そばに付き添う

⑤患者が食べたいものを家族に差し入れてもらう。

⑥食事を拒否したり、過食になる前後の様子や気持ちを確認する。

⑦人前で食事が摂取出来ない時は、個室や気持ちを確認する。

 (根拠) 患者が団欒や思いを表出できる安全な環境を提供しながら、信頼関係を構築していく。

 

⑧退院後の生活について不安を確認し、その対処方法について話し合う。

 (根拠) 適切に食事を摂取すると、体重が増加してくる。これは回復の兆しであるが、患者にとっては恐怖であもある。体重増加を良い事として患者に伝えることは逆効果になることもある。

 

⑨適切な食事パターンが守られていれば承認する。

⑩必要時、家族へ理解と協力を求める。また、摂食障害の当事者・家族の会を紹介し、必要性について話し合う。

 (補足) 患者の苦痛を受け止めながら、食事パターンが定着するように支援する。

 

 

 

#A に対する教育計画 ( EP )

(1)治療の必要性について説明する。

①標準体重や1日に必要な食事摂取量について説明する。

②低栄養状態により身体的なリスクがある事を説明する。

③納得のいかないことや不安などについては、抱え込まないように説明する。

 (補足) 社会生活技能や残存機能の程度。どこが歪んでいるのかを把握し、援助の方向性を判断する。

 

 (根拠) 家族の指摘は、感情的に受け止め反発する傾向にある。一方、家族以外の他者の意見は冷静に受け止め、自己洞察のきっかけとなり、対人関係回復のきっかけとなる。

 

 

 

#B に対する観察計画 ( OP )

(1)対人関係のパターン

①医療スタッフ、家族、他の入院患者との関係

②自身に対する表現、自尊心

③言動、態度、表情、理解度、認知の歪みの有無。

④1日の生活パターン

 

 

(2)ストレス因子、対処能力および解決能力

 (根拠) 原因ははっきりしないが、これまでの生活のしづらさやストレスの対処パターンが食行動上の問題として出現している可能性がある。

 

 

#B に対する看護ケア計画 ( TP )

(1)社会生活、家族関係、交友関係

①入院に至るまでの社会生活についての患者の思いを傾聴する。

 ・社会的役割について

 ・交友関係について

 ・家族関係について

 (補足) 対人関係のパターンの中に、ストレスとなる出来事はないか検討する。

 

 (根拠) これまでの行動パターンを振り返ることによって、考えを整理し、新たな視点を取り入れることが認知の歪み改善に繋がる。

 

②患者自身が感じている自分の行動特徴について思いを傾聴する。

 (根拠) 生きづらさとしては、理解されないことの孤独、不安、怒り、自己嫌悪、依存、成熟拒否、承認欲求などが挙げられ、周囲の理解と協力、これまでの対人関係パターンの変更が必要となる。退院後に安定した生活を送る為には、環境調整は必要不可欠である。

 

(2)ストレス対処行動について

 (補足) 患者が実践してきた対処行動は、自分自身を助けるために最善の努力をしてきたものであり、否定してはならない。これまでの対処行動を受け止めながら、さらに良い行動を共に考えていく。

 

①ストレスと食行動について関連性を話し合う。

②これまでに楽しいと感じた出来事について話を傾聴する。

③患者が感じているストレスや不安、恐怖などの感情を言葉にしてもらう。

 (根拠) ストレスや対処行動を言語化することにより、現実の問題に目を向けることが出来るようになる。

 

④ストレスに対する対処行動を看護師と一緒に考える。他の入院患者に話を聴く機会を設ける。看護師は自分の対処行動を紹介する。

 (補足) これまでの対処行動に加えて、新たな社会生活技能として他者が成功している方法を活用することにより、生き方の幅が広がる。

 

⑤散歩や買い物など気分転換できる機会を持つ。

 (根拠) 趣味に没頭して楽しむ。仕事に集中するなど、摂食障害の症状に左右されない現実に目を向けた時間をふやすことが回復に繋がる。

 

⑥病棟日課やレクリエーションなど、看護師以外の対人関係をもつ機会を設定する。

 (補足) 他社と比較することで、自分に出来ないことに着目するのではなく、日常生活の中で「楽しい」と思えることを増やしていくように働きかける。

 

⑦考えた対処行動を利用した感想を傾聴し、振り返りをする。

 


#B に対する教育計画 ( EP )

(1)同じような食行動上の問題を抱える人たちの自助グループの紹介と効果を説明する。

 (補足) 自分の考えを伝え、相手の反応を傾聴するなかで、新たな対処行動を習得していく。

 (根拠) 自助グループは、回復者のモデルを参考にしながら、自己の振り返りの場ともなる。これまでの体験を受け入れてもらい、感情を共有しあうことが回復に繋がる。

 

(2)問題行動を繰り返す可能性があることと、相談の窓口があることを説明する。

 (補足) 一人で抱え込んでいる間は、食行動上の問題から抜け出せないことを伝え、相談するように説明する。