心室中隔欠損症の看護過程
本記事の内容
心室中隔欠損症患者への看護に必要な情報とアセスメント
1.患者の背景
①これまでの健康状態
・出生歴
(妊娠・分娩経過、出生時・新生児期の状況)
・予防接種と小児感染症の罹患状況
・アレルギーの有無
②現病歴
・発症から現在までの経過、現在の症状
・検査結果と治療方針
(補足) 心室中隔欠損症は先天性の疾患である。検査や治療は乳幼児期に入院して行われる場合が多い。ピアジェの認知発達理論によれば、0~2歳の乳幼児は感覚運動期といわれ、感覚や運動が表情や言語を介さずには困難である。また、生後7か月~3、4歳頃までは分離不安も強く現れる時期なので、患児にとって入院・治療が大きなストレスとなりやすい。
一方、先天性心疾患は生命に関わる場合も多い。そのため、家族は疾患、入院・検査・治療(手術)に対して大きな不安を抱えることが多い。母親は自責の念を抱きがちであり、手術などの治療の際には、精神的動揺が高まり、一層不安が強まる傾向がある。患児・家族が抱いている不安や思いを把握する。
③既往歴
・疾患などの有無とその経過
④家族を含む生活状況
・環境の変化や入院生活への適応状況
・家族の疾患・治療に対する認識
(根拠) 心室中隔欠損症の患児は、酸素消費量に見合う動脈血の駆出が出来ず、わずかな運動や哺乳でも呼吸困難や心不全の増悪がみられ、休息も出来ない。また、哺乳摂取エネルギー・栄養素の不足や消化・吸収力の低下から、体重増加不良、低栄養の状態に陥りやすく、月齢や年齢に見合った身体の発育が困難になりがちである。発達課題の会得も困難になりがちになる。
酸素消費量の増大につながる粗大運動は心負荷を高めるため、発育に応じた体験をさせることが困難になる。家族には、心負荷を防ぎながら、適切な刺激を与え、療育することが求められる。しかし、患児のセルフケア能力を客観的に評価し、発育と病状におうじた療育をすることは容易ではない。
#A 身体障害の影響に関連した成長発達遅延
2.全身状態
①バイタルサイン
②感冒様症状の有無と程度
③全身状態
・チアノーゼの有無
・顔色、四肢冷感、活気・機嫌
④栄養状態
・哺乳歴、食事の内容と摂取量
・食事時の表情、様子、言動
・食べ物の嗜好、食欲
・体重の増減、水分出納
・血液データ
(TP、Alb、Hb、電解質など)
(補足) 欠損孔の大きさによっても異なるが、心室中隔欠損症の患児にとって哺乳や食事の摂取は、それだけで心負荷になる。肺うっ血によって気道内分泌物も増加するため、乳児では哺乳自体が困難になる場合が多い。心不全による全身への血液供給量の減少や消化管のうっ血は、消化・吸収力の低下をきたしやすい。
摂取量自体が少ないことに加え、消化・吸収力の低下もあり、低栄養に傾き、体重増加不良に繋がりやすい。また、消化管のうっ血や水分制限、運動量の不足によって便秘や下痢、腹部膨満を来すこともあり、これらは栄養摂取を一層困難にする。
⑤排泄状態
・排便状況、便秘、下痢の有無
#B 食物を摂取出来ないことに関連した栄養摂取/消費バランス異常
3.活動・休息のバランス
①心不全兆候
・バイタルサイン
・心拡大
・哺乳時、啼泣時の息切れ
・心雑音、心悸亢進、不整脈
・呼吸困難の有無
(補足) 心室中隔欠損症は、欠損孔の大きさや部位によって長期的予後が異なる。全体のほぼ1/2から1/3は患児が2歳になるまでに自然縮小から閉鎖する。しかし、欠損孔が大きい場合は、左右短絡によって静脈血の流れている右心室や肺動脈に動脈血が流入してしまい、肺動脈から肺を経由して再び左心室に戻ってしまう。左心房、左心室の容量負荷により心不全を生じる。また、さらに肺への血流量が増加し肺高血圧、心不全の状態になる。心不全は、肺うっ血を悪化させ呼吸不全に陥ることもある。肺血管の閉塞性病変が高度に進行すると、肺の欠陥抵抗が強くなり右心室圧が上昇し、左右短絡から療法構成短絡または右左短絡となるアイゼンメイガー症候群に陥る。
#C 酸素の供給/需要のアンバランスに関連した活動耐性低下
②表情・言動
③機嫌、啼泣の有無
④睡眠状態
⑤運動(粗大、微細)、言動、認知
・基本的生活習慣とセルフケア能力
4.知覚・認知
①患児・家族の病態・疾患についての知識
・入院による分離不安の有無
・疾患・資料に対する患児の受け止めや反応、不安や不快の有無
・患児への接し方
(補足) 心室中隔欠損症で肺うっ血が続くと、肺血流量の増加による多呼吸となり、気道内分泌物も増加し、換気不全を起こす。気道内分泌物増加は呼吸器感染症の原因となり、感染症は心負荷の増大から全身状態の悪化につながる。小欠損が存在する場合は、感染症心内膜炎のリスクが生涯続くことになる。感染性心内膜炎は、急性心不全や脳膿瘍の原因にもなる。歯科治療が引き金になることもあり、う歯予防、口腔内保清が重要なケアとなる。
#D 第一次生体防御機構の不備、(体液のうっ滞)に関連した感染リスク状態
②家族・母親の心理状態
・不安、ストレスコーピング
(補足) 心疾患は生命に直結する疾患との認識から、家族は病名の告知に深い衝撃を受けやすい。また先天性の疾患であるため、母親は自責の念を抱くことも多い。心負荷を避けるという理由で患児を必要以上に過保護にしたり、管理的な療育態度を摂ったりすることもある。
先天性心室中隔欠損症は、自然閉鎖を期待して成長を待つことも多い。検査・手術は、一定の体重、月齢に達するまで経過を観察してから行われるなど、長期にわたって通常の生活を送ることが制限されてしまう。
患児は呼吸器系の感染症を起こしやすく、感染を契機に心不全を引き起こすこともある。細菌性心内膜炎など合併症のリスクも抱えている。なるべく心負荷をかけず、日常生活を送れるように支援する必要がある。
③患児・家族のコミュニケーション能力
④染色体異常、その他の奇形・疾患合併の有無
5.周囲の認識
①家族(母親)の疾患や治療に対する認識・理解度、疾患の受容
・不安や動揺の程度、疲労度
(補足) 先天性心疾患は重症であるほど成長に伴って、検査や治療・手術を繰り替えす。さらに薬剤によるコントロールが続くなど、疾患ともに成長することになる。患児が日常生活において、適切なセルフケア行動を習得し、疾患をコントロールしていくには、家族の理解と適切な介入を必要とする。治療が長期に及ぶことで、家族の精神的、経済的な負担は増大する。学童期に入れば学習の遅れなど新たな社会問題が生じてくることもある。
家族の言動や表情、疲労の有無などを観察し、治療や検査、処置に対する認識や不安について観察する。
②患児への接し方・教育方針
③兄弟の有無やサポート体制
主な看護診断と患者の目標(成果目標)
#A 身体障害の影響に関連した成長発達遅延
患者の目標(成果目標)
・心負荷による日常生活への影響を最小限にする方法を検討・実施することが出来る。
・患児の成長発達に応じた療育が行われ、患児なりの身心の成熟がなされている。
#B 食物が摂取出来ない事に関連した栄養摂取/消費バランス異常
患者の目標(成果目標)
・哺乳量または食事摂取量が増加する。
・バランスのとれた食事をすることが出来る。
#C 酸素の供給/需要のアンバランスに関連した活動耐性低下
患者の目標(成果目標)
・呼吸床上が悪化しない。
・心不全がコントロールされ、安楽に過ごすことが出来る。
(うっ血性心不全を起こすことなく経過する事が出来る。)
#D 第一次生体防御機構の不備(体液のうっ滞)に関連した感染リスク状態
患者の目標(成果目標)
・呼吸感染を起こさない
・感染性心内膜炎を起こさない
・口腔内の清潔を保つことが出来る。
看護計画(具体策)
#B 食物が摂取出来ない事に関連した栄養摂取/消費バランス異常
患者の目標(成果目標)
・哺乳量または食事摂取量が増加する。
・バランスのとれた食事をすることが出来る。
#B に対する観察計画(OP)
(1)全身所見
①心悸亢進、呼吸困難の有無
②バイタルサイン、顔色、機嫌、活気の有無
③体重の増減
(2)栄養状態
①食事、栄養に関する情報
・哺乳量、食事の内容と摂取量
・食事時の表情、言動、様子
・食べ物の嗜好、食欲
・食行動の自立の状況
・血液データ
(TP、Alb、Hb、電解質など)
・水分出納
(補足) 食事や哺乳量が増えない場合は、心負荷によるものか、それ以外の要因なのかを判断し、援助につなげる。心負荷が強い場合は、無理強いは負担を増やすことになるのでしてはいけない。
(根拠) 食事や哺乳による労作は、啼泣などと同様に心負荷を高める要因になる。心拍数や血圧が高値となり、心悸亢進、呼吸困難の増強に繋がる可能性がある。
また、強い心負荷のある場合、体重は増加しない。むしろ体重の増加は肺うっ血浮腫の特徴であり、心悸亢進や呼吸困難を悪化させる可能性もある。
②排泄状態
・排便の状況、便秘・下痢の
・腹部膨満の有無
・嘔吐の有無
#B に対する看護ケア計画(TP)
(1)哺乳量、食事摂取量を増やす工夫
①1回哺乳量を減らし、哺乳回数を増やす
(補足) 哺乳力の低下が認められる場合は、呼吸数、脈拍数の増加や、発汗量の増加の状態を観察しながら無理強いを避けるよう勧めていく。一例として一回哺乳量を減らし、哺乳回数を増やしてみる。授乳は無理をせず、休ませながら与える。それでも哺乳量が増えない場合には、経管栄養を行う。
(補足) 新府kなお強い場合にはm呼吸困難や腹部膨満などにより食欲不振になる。無理強いは負担をふやしてしまうことになるので、症状を軽減させることに配慮し、食事はタイミングを十分に考慮しながら与えるようにする。
②バランスの良い食事摂取方法の検討
③高たんぱく、高エネルギーの食事の準備
・患児の好みにあわせた食品の準備
・家族に持参を依頼する
④輸液の管理
#B に対する教育計画(EP)
(1)家族・患児への指導
①栄養バランスの重要性について
②無理をしない
③嘔吐しやすい乳児への対応
・授乳時、授乳後の体位について
・効果的な排気の方法について
(補足) 家族・患児に対して栄養摂取の必要性について説明を行う。患児の成長や認知力の発達に応じて、解りやすい言葉や表現方法を用いるように心掛ける必要がある。これらは呼吸状態、哺乳力、体重増加に影響する。
#C 供給/需要のアンバランスに関連した活動耐性低下
患者の目標(成果目標)
・呼吸床上が悪化しない。
・心不全がコントロールされ、安楽に過ごすことが出来る。
(うっ血性心不全を起こすことなく経過する事が出来る。)
#C に対する観察計画(OP)
(1)心不全兆候の観察
①呼吸状態
・呼吸数、呼吸音、努力呼吸の有無と程度
・SpO2値の変動
・咳嗽、喘鳴、鼻汁の有無
・痰の量と性状
・哺乳時、啼泣時の息切れ
・呼吸困難の有無
(補足) 肺うっ血および肺高血圧の進行によって、症状が悪化する。早期に心不全兆候を発見し、適切な対処を行っていく。
(根拠) 肺高血圧を伴う場合には、気道の圧迫・閉塞により無気肺を生じる事がある。肺うっ血により、気道内分泌物も増加し、換気およびガス交換障害によって、呼吸不全となりやすい。呼吸状態の悪化は、心不全症状の一つである。
②心悸亢進、不整脈、顔貌、姿勢
(2)全身所見の観察
①バイタルサインの観察
②水分出納
・水分摂取量、食事量、尿量
・汗、皮膚の湿潤、口渇
・浮腫、体重の変動
③活動の状況
・活気、機嫌
・睡眠、言語、遊びの助教
④検査データ
・心電図検査
・胸部X線検査
・心臓超音波検査
・血液検査
・血液ガス分析
#C に対する看護ケア計画(TP)
(1)安楽な呼吸状態の維持
①体位の工夫
・起坐位、ファウラー位、腹臥位
(補足) 患児にとって安楽な体位を工夫し、最も呼吸を安定させ安楽な体位をとる。
(根拠) 起坐位、ファウラー位は、横隔膜の可動性を改善し、換気をしやすくなる。腹臥位は酸素化を改善させる効果がある。
(補足) 原則として酸素投与は行わない。
(根拠) 酸素は、肺動脈を拡張させるため、肺血流量を増大し、呼吸困難を悪化させることがある。医師の指示を確認する。
②啼泣を避ける
③1回哺乳量を減らし、哺乳回数を増やす
(根拠) 一回哺乳量を減らすことで、哺乳時間の短縮による心負荷の軽減、胃の膨満による横隔膜の挙上を回避することにより安楽な呼吸を図ることが出来る。
(2)安静の保持
①苦痛・不快感の除去
・手早いケア
・オムツ交換のタイミング
・空腹の察知
・不快な刺激を避ける
(根拠) 不快な刺激等による労作は啼泣同様に心負荷の増大につながる。心拍数や血圧が高値になり、呼吸状態を悪化させる要因になる。
②精神的な安定を図る
・好きな玩具や音楽
・遊びの工夫
・家族の交流への配慮
(根拠・補足) 精神的な安定を図ることで、心負荷避けることが出来る。
好きなおもちゃや音楽、家族と過ごせる時間への配慮、遊びの工夫など、患児が年齢相応の過ごし方が出来るように援助していく。安心して心穏やかに過ごすことが出来る環境整備もする。
(3)薬物療法の管理
①予約方法、量、時間の厳守
②予約方法の工夫
(根拠・補足) 病状のコントロールに不可欠な薬剤であるが、副作用もあるため、十分な管理が必要になる。利尿薬、強心薬、ACE阻害薬など、循環血液量に作用する薬剤を使うことが多い為、正確な与薬に配慮する。
(4)感染予防
(補足) 心不全を悪化させないために、感染予防に十分注意する。
①感染症の患児との接触を避ける
②分泌物除去
③口腔内の保清
④入浴、清拭
(根拠) 肺うっ血により哺乳や食事摂取が困難で、低栄養状態、貧血、易感染状態にある。また、乳幼児は、感染防御機構が未発達である。さらに、肺うっ血状態は、気道内の分泌物を増加させ、呼吸器感染を起こしやすい。
#C に対する教育計画(EP)
(1)家族への説明
(補足) 家族が治療の必要性やその内容、将来への見通しをもって関わることが出来るように働きかける事を目標とする。
①治療の必要性、治療期間
②(必要時)手術方法について
③症状の観察の仕方と病状の関連
④服薬の管理と必要性について
⑤新負荷をかけない哺乳方法
⑥食事内容、水分摂取の方法
(根拠) 家族の不安を解消し、主体的に患児のケアに参加出来るように働きかける。また、親が疾患や治療の内容をよく理解していれば、患児に分かりやすく説明することが出来る。
(2)患児への説明
(補足) 家族と同様に、患児に対しても疾患や服薬などに対する説明を行う。成長や認知力の発達に応じて、理解しやすい言葉や表現方法を用いる。
①理解力に応じて疾患や治療・検査についての説明をする。
②服薬の方法と重要性について
③自分の身体を治すために頑張ることについて
(根拠) 疾患を自分自身の事ととしてとらえることで、 主体的な闘病姿勢をとることが出来るようになる。