心不全の患者の看護過程
本記事の内容
- 心不全患者の看護に必要な情報収集とアセスメントの視点
- 主な看護診断と患者の目標(成果目標)
- 心不全患者に対する看護計画(具体策)
心不全患者の看護に必要な情報収集とアセスメントの視点
1.患者の背景
①発症時間、きっかけ
②既往歴
(補足) 心不全を発症する患者は基礎疾患を持っていることが多い。そのため、既往歴を把握する必要がある。症状の増悪は生活習慣に起因することが多く、患者を取り巻く環境が大きく影響している。心不全を起こすと心機能は確実に低下し、再発を繰り返すたびにささらに低下していく。これまでの入院回数、経過を把握し、個々の心機能の程度を把握していく。
③入院回数
④家族構成
⑤年齢
⑥職業
⑦生活習慣
⑧自己管理能力
(補足) 治療を継続していくために、心機能の程度に応じた自己管理をしていかなくてはならない。食事、運動制限、内服を継続していく意義を患者が理解しているか、持続できるかを観察・評価していく。自己管理能力が低い場合は原因を把握していく。
#A 知識不足に関連した非効果的自己管理
2.全身状態
①現在の症状
(根拠) 急性心不全では急激に重篤な症状が生じる。バイタルサイン、血行動態、呼吸状態など速やかに観察し、救命処置判断にをすることが重要となる。重症度として基準となるのは、キリップ分類、フォレスター分類、NYHA心機能分類などが用いられる。
・呼吸困難の有無
(呼吸数、性状、呼吸姿勢、断続性ラ音)
・咳嗽、痰の量、性状
・心拍数、不整脈の有無
・血圧
・酸素飽和度、チアノーゼの有無
・発作性夜間呼吸湖南
・食事摂取状況
・体重増加の有無
・尿量減少
②検査データ
・胸部X線検査
・血液検査
・心電図検査
・心臓超音波検査
・循環機能検査(中心静脈圧)
・動脈血ガス分析
・心臓カテーテル検査
(根拠) 左心不全では呼吸困難を主とする苦痛が強い。これらは、心拍数の増加、不整脈出現など、心臓に対する運動負荷と同様、悪影響を及ぼす。そして、患者の不安感を増大させる。右心不全では、体組織量への体液量過剰となり、浮腫、胸水など症状が出現する。
※右心不全:浮腫、胸水の出現、中心静脈圧の上昇
※左心不全:呼吸困難
(補足) 心不全は心疾患悪化状態であるため、すでに体力が低下していることが多い。それに加え、胃、腸、肝臓のうっ血により、食欲不振、悪心・嘔吐などの消化器症状の出現や全身管理、薬物療法による食欲低下は抵抗力、回復力に影響し、体力低下を助長していしまう。
③ショック症状
3.活動と休息のバランス
①ADL状況
②現在の安静度
③安静時、労作時のバイタルサイン・心電図の変化
(補足) 脈拍鵜数の増加は心不全の悪化兆候であり、心房細動を起こしていないか、自覚症状と合わせて観察してく。
検査データは心機能の程度を知るために必要である。急性増悪期は基礎疾患との鑑別を必要とし、血液検査、心電図検査、心臓超音波検査の結果を把握する。全身への酸素供給状態を知る為に、動脈血ガス分析値を把握する。
また、心筋梗塞の合併症で発症してる時は、心房、心室、弁の動きを判定するため、心臓カテーテル検査が行われることがある。中心静脈圧の上昇は、右心不全を示す為、随時測定する。治療方針の決定・治療効果の判断も可能であり、患者の状態を客観的に観察・判断する要素として有効である。
#B 心筋収縮性の変調に関連した心拍出量減少
④治療と生活制限
⑤睡眠状態
⑥睡眠時の体位
⑦社会活動状況(社会復帰に対する姿勢)
(補足) 心機能の程度によって生活行動範囲が変わる。心機能に負担のかかる労作は、異常な心拍反応を示す。心機能が極度に低下している時は、安静が守られているか否かが予後に大きな影響を与える。そのため、患者は生活行動の狭小化を余儀なくされるため、身体的・精神的に拘束感が増す傾向がある。
症状が改善されると、心機能の程度に応じた活動が出来るようになる。睡眠、食事、清潔、排泄、などの心負荷を増大させるADLが心臓に与える負荷を把握し、労作が心機能に負担とならないように、心機能の程度に応じた活動が出来るように援助する。
♯C 酸素の供給/需要のアンバランスに関連した活動耐性低下
4.知覚・認知の状態
①病態・疾患についての知識
・治療の意義
・自己の心機能
・悪化要因
・理解力
(補足) 肺うっ血により肺炎、気管支炎を発症しやすい。肺うっ血が改善しないと治癒しにくい。さらに呼吸困難も強まる為、発熱があると酸素消費量の増加、咳嗽による消費エネルギーの増加をきたし、心負荷を増す。
また、尿量減少、膀胱留置カテーテル、入浴制限などにより、尿路感染症のリスクが高まる。さらには下肢の浮腫、安静保持による下肢の循環不全、肺静脈うっ滞や利尿薬の使用による血液の濃縮などにより、下肢の血栓性静脈炎を起こすリスクも増大する。
#D 膀胱カテーテルの長期留置に関連した感染リスク状態
②自己健康管理のための身体能力
(補足) 心不全の発症、悪化には生活習慣が関連している。急性増悪の原因が疾患の認識不足によるものであれば、再発の危険性が予測される。したがって疾患に対する患者の認識の程度を把握する。飲食の制限は日常の大きなストレスになるため、守れるように支援する。
5.周囲の認識、支援体制
①家族構成
②家庭内での役割
③家族の認識、協力度
・心不全悪化に伴う、患者・家族の反応
・理解度、支援体制
(補足) 退院後は、日常生活上の管理が重要になる。しかし、確実な内服、塩分・水分性k減などは自己管理が難しい。特に患者が高齢者であればその傾向は強くなる協力者もまた高齢者であることも少なくない。管理に協力してくれる家族の有無と患者・家族の認識、自己管理能力を観察・評価し、自宅で実践可能な方法を指導していく必要がある。
④職業、社会的役割
・職場の人の認識と理解
(補足) 心臓は生命維持に関わる重要な臓器である。また、急性期には呼吸困難を呈する。緊急の処置・治療がされることにから家族は不安に陥りやすいため、家族の不安を把握する。心不全患者は症状が改善しても治療が継続される。心機能の程度に合った生活環境が整備されているか、支援可能な家族であるか。疾患の理解度どうかなどを判断していく。
主な看護診断と患者の目標(成果目標)
#A 知識不足に関連した非効果的自己管理
患者の目標(成果目標)
・自己の健康管理状態を把握することが出来、指示された薬物療法、食事療法が実施することが出来る。
#B 心筋収縮性に関連した心拍出量減少
患者の目標(成果目標)
・十分な心拍出量を維持することが出来る
#C 酸素の供給/需要のアンバランスに関連した活動耐性低下
患者の目標(成果目標)
・労作時に異常な心拍反応を示さない。
#D 膀胱留置カテーテルの長期留置に関連した感染リスク問題
患者の目標(成果目標)
・尿路感染を起こさない
・身体の清潔を保つことが出来る
心不全患者に対する看護計画(具体策)
#A 知識不足に関連した非効果的自己管理
患者の目標(成果目標)
・自己の健康管理状態を把握することが出来、指示された薬物療法、食事療法が実施することが出来る。
#A に対する観察計画(OP)
(1)自己管理の認識と意欲
①疾患に対する認識、病態に関さる関心、反応、原因、増悪因子、心機能レベル、検査所見、予後など
(補足) 患者指導は、患者の健康管理能力が向上することを目指して行われる。特に高齢者は疾患・治療に対する理解度、日常生活上の健康管理の意欲を把握し、患者のレベルに併せた指導内容、方法に変更していく。
(2)指示された治療、生活制限の実施状況
(3)自己管理の意欲に影響を与えている因子
①疾患に対する不安やストレス
②予後への不安
③生活軽減に対する拘束管
(根拠) 疾患、予後に対するストレスや不満、心配事がある時は、落ち着きや集中力を欠きやすい。そのため、学習意欲や自己管理意欲が低下する。
(4)家族の支援状態
①疾患、治療に対する理解度、支援能力
(補足) 長期の療養生活において、自己管理を継続させるためには、家族の支援が必要不可欠なる。家族の協力度や支援能力を把握して援助していく。
#A に対する看護ケア計画(TP)
(1)自己管理の為の具体的な行動計画を医師とともに立案する
(2)指示された治療、自己管理が行えるように援助
① 望ましい行動がとれているときには努力を認め、ほめる
② 治療、自己管理が出来ないときには、その原因を患者自身が気付けるように援助する。
(根拠) 努力を認めることは、自己管理をしていく自信、意欲へとつながる。
(3)心理的支援
① 疾患や予後に対する思いを表出することができ、不安やストレスが軽減し、回復意欲が持てるように支援する。
(根拠) 長期間続く療養生活では、様々なストレスや不安が出現する。上記の通り、これらは闘病意欲の低下につながりやすい。
#A に対する教育計画(EP)
(1)疾患の原因、病態、症状、予後についての説明
(補足) 説明の目的は、「疾患に対する認識を高め、自己管理に関心を持たせること」である。
(2)心不全を悪化させる因子、悪化の兆候についての説明
(補足) 病識の程度、理解力、正確に合わせた説明や表現方法を工夫する。
(根拠) 疾患、症状について正しい理解を得ることで、不安は軽減し、回復意欲を高めることが出来る。
(3)指示された生活制限、薬物療、食事療法の目的や必要性と生涯継続することの重要性についての指導
(根拠) 指示された生活制限や治療が患者にとって価値がある事を認識する子tが出来れば、自己管理への意欲を高めることが出来る。
(4)行動制限についての説明
①心臓の予備能力の範囲内での活動
(補足) 心機能に合せた負荷基準により、活動の範囲を決定していく。
②許可された活動範囲
・ADL、入浴、家事、仕事量、運動、旅行、スポーツ、外出
(補足) 退院後の生活を考え、行動範囲を具体的に示す。指示された行動制限の範囲内で活動をする。活動範囲を拡大する時には、徐々に拡大していく。
③運動強度、各種労作時エネルギー消費率
(5)薬物療法についての説明
①薬物療法の目的、薬剤の種類、効果、服薬方法、副作用とその対処方法
(根拠) 薬物療法が継続されなかったり、不正確であると心不全は悪化する。
(6)食事療法についての指導
①水分・塩分制限、エネルギー制限
②調理上の工夫
(補足) 塩分制限を継続するためには、美味しく食事が出来るように味付けなど調理の工夫をする。
(7)心負荷の予防方法についての指導
①排便コントロール
②室温、トイレ、浴室内の温度、入浴時の湯の調節
③禁煙
(根拠) 排便コントロール、生活環境の改善、禁煙は心負荷を軽減する。
(8)心不全悪化兆候のセルフチェックについての指導
①悪化兆候の有無
(根拠) 患者自身が悪化兆候を判断出来るようになることは、長期療養において有用である。
②毎朝、体重測定をする
(補足) 水分制限が守らているにも関わらず、尿量が減少しているのであれば、体内の水分貯留が考えられる。
③悪化兆候に気付いた時の対処方法
(9) (1)~(8)を家族にも指導
(補足) 家族が患者を支援することは、療養生活を継続していく上で重要である。
(10)指導方法と内容
①患者、家族の健康管理能力と目標に合せる
(補足) 患者・家から十分に理解をしてもらうために、疾患の程度・理解力、正確に合わせた説明・表現方法を工夫する。
# B心筋収縮性に関連した心拍出量減少
患者の目標(成果目標)
・十分な心拍出量を維持することが出来る
#B に関する観察計画(OP)
(1)発症にいたるまでの経過
(補足) 心機能の評価と悪化要因を発見する。
(2)自覚症状の有無・程度
(補足) 苦痛の程度を知り、緩和に努める。理由は、心不全はほとんどの場合、緊急入院になり、呼吸困難による身体的苦痛が強い。
(3)身体所見の有無、程度
①バイタルサイン
②末梢浮腫の有無と程度
(根拠) 緊急性、重症度の判断をすることで、対処を決定する。
(4)心電図モニタの持続監視
①不整脈の有無:心房性期外収縮(PAC)、心室性期外収縮(PVC)
(根拠) 基礎疾患の状態、心機能の評価
②異常波形の有無:ST・QRSの変化、QT時間の延長
(補足) 心電図異常が観察される時は、症状も併せて観察し、基礎疾患、心不全の悪化兆候を把握する。
(5)不整脈に随伴する症状の有無
①胸部不快感:胸痛、顔色不良、チアノーゼ、脈拍減弱、血圧低下など
(6)循環動態
・心拍出量
・右心房圧
・肺動脈楔入圧
(補足・根拠) 重症心不全ほど症状の進展が早い。そのため頻回のチェックが必要となる。
(7)水分出納
①補液量
②飲水量
③時間尿
(補足・根拠) 正確な水分出納を把握する。理由として、心機能の状態によっては厳しい制限が必要になるためである。
(8)体重測定
(補足・根拠) 毎朝同一条件で体重測定を行う。右心不全が進行すると全身に浮腫が出現し、体重が増加する。慢性期の体重増減は±1Kg以内を目標とする。
(9)検査データ
(補足) 基礎疾患の状態、心不全の程度を把握し、悪化の早期発見および経過を観察する。
(10)食事摂取量
(補足) 消化器症状および薬物療法の影響を観察する。食事の量・質ともに十分に摂取することで、体力保持をすることが出来る。
(11)衰弱の有無、活気・活力の状態
(補足) 体力が低下していないか観察する。
(12)睡眠状態
(補足) 苦痛、不安、精神的ストレスとの関係を観察する。睡眠不足は回復力の低下につながる。
(13)二次的感染、障害の兆候の有無と程度
(根拠) 肺うっ血により、肺炎、気管支炎、膀胱留置カテーテル留置による尿路感染症などを生じやすい状況にある。
(14)薬剤の副作用兆候の有無と程度
(補足) ジギタリス投与時は中毒症状(不整脈、悪心・嘔吐、下痢、精神的混乱)に注意する。
#Bに対する看護ケア計画
(1)安静の保持
①体動の制限
②労作時の休息
③面会制限
(補足・根拠) 安静を保持できる環境を整備する。労作にともなうケアは休憩時間を確保しながら実施していく。
安静は心臓仕事量を軽減し、心拍出量の維持、酸素消費量の減少・利尿につながり、重症心不全の場合、予後に悪影響を与える。
(2)体位の工夫
①起坐位、半座位、起坐呼吸時の体位
②ギャッジアップ、安楽枕、毛布、布団、オーバーベッドテーブルなどの利用
(根拠・補足) 安楽物品をしようすることで、安楽な姿勢を確保・保持しやすくなる。起坐位をとることで、心臓、肺に戻る血流量を減少させ、肺うっ血を軽減することが出来る。また、重力により横隔膜も下がるため、呼吸困難感の軽減も図ることが出来る。
(3)睡眠促進への援助
①体位の工夫(半座位)
②寝具の工夫(軽い物、肌触りのよいもの)
③家族の付き添いによる安心感
④睡眠薬の与薬
(補足) 長時間同一体位をとることは、苦痛を感じる。体位を変えることにより、苦痛の緩和、肺うっ血状態の軽減を図る。
(4)保温
①身体の露出を避ける
②毛布の追加、靴下の使用
(根拠) 冷感は血管を収縮させ、血圧上昇につながる。血圧が上昇すると心臓の負荷が増えるため心不全悪化につながる。
(5)環境調整
①換気、室温の調整、室内調整の工夫
②家族が十分に関われるように配慮する
(6)薬物療法の確実な施工
①ジギタリス製剤、利尿薬、血管拡張薬の種類・量・時間
②持続点滴の確実な施行
(根拠) ジギタリス製剤は低下した心機能の回復、心負担の軽減を目的に投与される。
(7)水分・塩分制限の確実な施行
(根拠) 腎血流量の低下により、水分・塩分の排泄障害をきたすため、心臓の負担軽減のために行われる。
(8)酸素療法の確実な施行
(補足・根拠) 肺うっ血のため、有効な呼吸面積の減少、換気・拡散障害が生じ、呼吸困難が出現する。そのため、少ない心拍出量で血中酸素濃度を高め、各組織に酸素を供給する必要がある。
マスク、ナザールチューブが適切に装着されているかを確認する。
(9)患者・家族への精神的なサポート
①円滑なコミュニケーションを保つ
②訴えに耳を傾ける
③不安が表出できるように傾聴する
④希望がもてるように励ます
⑤面会時間を調整する
(補足) 人的環境を適切に整えることにより、不安を軽減し、不安を乗り越える力を与え、回復意欲を向上させる。
(10)二次的感染・障害の予防と悪化防止
①肺炎:口腔内保清、体位変換、時間ごとの深呼吸
咳嗽の励行、気道浄化など
②尿路感染:尿道口、外陰部の保清
③血栓性静脈炎:足関節の底背屈運動
(根拠) 下肢の血流促進と筋肉を収縮させて筋力ポンプを有効活用することを目的に行う。これらは下肢の筋力低下予防の効果があり、リハビリテーションとしても有用である。
・男性ストッキングの着用
※強い浮腫が観察されるときは弾性包帯でストッキングの代用とする
(根拠・補足) 自力で運動が出来ない場合、適度な圧力をかけて還流を促し、血栓の形成を予防する。浮腫の強い場合は、浮腫の軽減にも有効である。
弾性ストッキングを強く締めすぎると循環・神経障害や褥瘡が生じるので注意する。
(11)基本的ニーズの充足とADLの援助
①食事の準備、必要時介助
②床上排泄の介助
③排便コントロール
・腹部マッサージ、下剤、座薬の使用
(補足) 腸うっ血により下痢に傾くことが多いが、長期間の安静保持、水分量制限、食事量減少、利尿薬の使用、床上排泄など便秘に傾く要因が多い。便秘は努責により、心負担を増大するので、予防に努める。
④清潔
・全身清拭、頭部の清潔、口腔内の保清、陰部洗浄
(補足) 新負荷の影響を考慮しながら、汚染しやすい部位の清潔を保つ。
(根拠) 抵抗力の低下に加え、発汗、床上排泄など感染を起こす要因が多い。
#B に対する教育計画(EP)
(1)症状出現時の対処
①症状(胸部不快、呼吸困難など)が出現した時にはすぐに知らせるように指導する。
(補足) 床上出現時は躊躇せず知らせる必要があり、どんなことでも伝えるように説明する。
(根拠) 症状が軽微な場合、患者が医療者に伝えるか迷う場合が多い。