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大動脈解離の看護過程・看護計画(OP、TP、EP)のための必要な情報収集とその評価・アセスメント、看護問題に対する成果目標達成のための具体策

 

大動脈解離の看護過程・看護計画

 

本記事の内容

 

 

 

 

 

 

大動脈解離の患者に対する看護に必要な情報収集とそのアセスメント

1.患者背景

①現病歴
 ・発症の時期、経過
 ・治療の経過


②既往歴
 ・高血圧
 ・先天性疾患
 (マルファン症候群、自己免疫性疾患)
 (補足) 大動脈解離は原因不明だが、高血圧が重要なリスクファクターであるとされている。対象者が高齢者である場合、動脈硬化により、動脈壁が脆弱化し、拡張していることが原因である。また、喫煙は動脈硬化を促進するため、喫煙により末梢動脈が収縮し、一過性の血圧上昇をきたすため動脈瘤破裂の誘因となる。


③いままでの健康管理、健康状態の認識
 (補足) 特に日本人は塩分摂取量が多い傾向にあるため、塩分の過剰摂取は腎臓での水分の再吸収を促進し、体液量の増加をもたらし、その結果血圧上昇につながる。

 

④生活背景、環境
 ・生活習慣
 ・喫煙歴
 ・飲酒の有無
 ・職業
 (補足)退院後、生活管理をしていく上で、いままでどのような健康管理、セルフケアを行ってきたのかを情報収集する。

 

⑤健康に関連した価値、信念
 ・宗教的習慣の有無
 (補足)大動脈解離は急激に発症することが多く。動脈解離の位置、範囲によって治療法が選択される。大動脈破裂により心タンポナーデを起こしている場合や、ショックを起こしている場合は輸血が必要となる場合がある。また、価値や信念によって治療が妨げられていないか、また、今後妨げる恐れがないかアセスメントしていく。

 

#A 知識不足に関連した非効果的自己管理

 

 

 

2.全身状態の観察

①栄養状態
 ・身長、体重、BMI、体重の変化
 ・口腔、皮膚の状態
 ・検査データ
 (TP、Alb、血糖値、赤血球、Hb)
 (補足) 過剰なエネルギー摂取は肥満や動脈硬化に繋がり、高血圧のリスクとなる。嗜好に合わない制限食の場合、食事摂取量が低下し、栄養状態悪化の原因となる。

 

②排泄状態
 ・排便回数、性状
 ・腸蠕動音、腹部症状の有無
 ・排便に対する対策
 (補足) 入院による環境の変化とストレス、床上安静による運動量の低下、疼痛のコントロールの為に使用される麻薬性鎮痛薬の副作用などの要因により、腸蠕動運動が低下し、便秘になりやすい。排便時の努責は血圧上昇をきたし、動脈瘤がある場合は大動脈破裂の誘因となるため、排便状態を把握する。

 

 ・排尿回数、性状
 ・排尿に対する対策
 ・検査データ
 (BUN、Cr、Ccr、K、Na、Cl、AST、ALT)
 (補足) 大動脈から枝分かれしている動脈を偽腔が圧迫して狭窄や閉塞が生じることで、その動脈が血液を供給している臓器に虚血による障害が起こる。


 ・腎動脈:腎不全
 ・腹腔大動脈:肝不全、胃潰瘍
 ・上・下腸間膜動脈:腹痛、虚血性腸炎、腸蠕動低下、腸管麻痺
 ・上行大動脈:心タンポナーデ、ショック
 ・冠動脈病変:狭心症、心筋梗塞
 ・鎖骨下動脈:上肢の脈拍、血圧に左右差が生じる
 ・下大動脈:上下肢の血圧差(上肢>下肢)
 ・下腿の動脈:下肢の壊死、間欠跛行

 

#D 循環血液量減少に関連したショックリスク状態

 

 

 

 

3.活動・休息のバランス

①ADLの支障の有無と程度
 (補足) 解離の進行を防ぐために床上安静となる場合が多い。また、同時に点滴や酸素吸入が行われたり、疼痛によりADL制限が生じ、日常生活に支障をきたしていないか観察する。

 

②呼吸状態
 ・呼吸困難、チアノーゼの有無
 ・咳嗽、痰の有無、性状
 ・呼吸音
 ・胸部レントゲン
 (CTRの拡大、瘤の拡大)
 ・SpO2値

 

③循環状態
 ・顔色
 ・血圧(左右差の有無)
 ・脈拍
 ・浮腫、頸静脈怒張の有無
 ・四肢冷感
 ・倦怠感、疲労感
 ・疼痛、胸部不快感
 ・下肢の壊死、間欠跛行の有無


④休息・睡眠パターン
 (補足) 疼痛を中心とした症状や環境変化により、睡眠や休息が十分にとれてないことがある。十分な休息がとれていない場合や不眠は血圧上昇につながる。

 

 


4.知覚・認識の状態

①意識レベル、認知機能
 ・JCS、GCS
 ・記憶力、判断力の程度
 (補足)総頚動脈は脳虚血による眩暈、頭痛、意識障害、痙攣などを引き起こす。また、大動脈解離による疼痛は、失神するほどの激痛であり、血圧上昇因子となるため、麻薬性鎮痛薬でコントロールされる場合が多い。疼痛は解離が進むにつれて複数回出現する為、疼痛の程度を把握する。

 

#B 大動脈の損傷に関連した急性疼痛

 


②心理状態
 ・不安
 ・疾患に対する受け止め方
 ・ストレスコーピング
 ・自身の身体についての感じ方・受け止め方
 (補足) 大動脈解離は激痛を伴う急激な発症であることが多い。そのため、治療も急を要する。急性期の死亡率も高く、症状に対する苦痛や次々とおこなわれる検査や治療に対しても不安を生じやすい。

 

#C 死への脅威に関連した不安

 


③コミュニケーション能力

 

④疼痛の有無と程度

 

 

 

5.周囲の認識、支援体制

①家族構成


②家庭内での役割


③キーパーソンの有無


④社会的役割
 ・職業の有無、職業の内容


⑤経済状態
 (補足) 入院生活が続く中で、家族に役割の変更や経済的負担がかかる場合がある。治療を円滑に進めていくためには、家族や周囲の人との良好な関係を築いておく必要がある。急性期を脱し、慢性期に入ってからも血圧コントロールと、安静度に応じた日常生活が必要になる。再発を予防するために、生活習慣の改善が必要な場合は、患者だけでなく家族も含めた支援を行う。

 

 

 

 

 

主な看護診断と患者の目標(到達目標)

#A 知識不足に関連した非効果的自己管理

患者の目標(到達目標)

 ・血圧コントロールの必要性を理解し、日常生活で実施出来る。

 

 

#B 大動脈損傷に関連した急性疼痛

患者の目標(到達目標)
 ・疼痛が緩和し日常生活を送ることが出来る

 

 

#C 死への脅威に関連した不安

患者の目標(到達目標)

 ・不安の表出をすることが出来る

 

 

#D 血液量減少に関連したショック状態

患者の目標(到達目標)

 ・大動脈の解離の進行、破裂を起こさない

 

 

 


問題点別の看護計画(具体策)


#A 知識不足に関連した非効果的自己管理
患者の目標(到達目標)
 ・血圧コントロールの必要性を理解し、日常生活で実施出来る。

 

#Aに対する観察計画(OP)

(1)健康や疾患に対する考え方

 (補足) 健康や疾患に対する考え方を理解し、屋委員後の日常生活に対する説明方法や内容を検討しておく。


(2)血圧を上昇させるリスクに対する理解度

 (補足) 日常生活における血圧上昇因子の理解度を知ることで、退院後の日常生活指導の内容を検討しておく。


(3)服薬状況

 ①入院前の服薬状況
 ②入院中の自己管理状況

 (補足)退院時の服薬指導に利用する為、入院前と入院中の服薬状況を把握しておく。

 
(4)食事状況

 ①入院前の食事状況、嗜好
 ②入院中の食事摂取量、満足度

 (補足) 血圧上昇予防のため、塩分制限が必要になる場合が多い。その為、入院前の嗜好を把握し、食事指導に役立てる。制限食により、食が進まず、必要エネルギー量が摂取出来ない場合や食に対する満足感が得られない場合があるので考慮する。

 

(5)喫煙状況、禁煙への意思

 (根拠) 喫煙や塩分の過剰摂取、ストレスは血圧上昇の原因となる。血圧の上昇により、解離性大動脈が再発するリスクがある。

 

(6)ストレスの有無

 


(7)不眠の有無、十分な休息がとれているか

 (補足) 十分に休息がとれていない状況で活動を続けると、体力を消耗し、心臓負荷につながる。

 
(8)家族の支援体制

 (補足)家族のサポートが必要な場合があるため、家庭環境や家族のサポート体制を理解する。

 

 

 

 

#Aに対する看護ケア計画

(1)血圧測定

 ①血圧、脈拍を毎日測定する

 (補足) 毎日血圧測定することで、普段の血圧値を知ることが出来る。それによりセルフモニタリングできるため、自己管理を継続しやすくなる。

 
(2)服薬管理

 ①決められた時間に決められた量を内服する

 

 

(3)食事の工夫

 ①塩分制限が必要になる。その為、味付けや外食時の注意点に関する指導

 (補足) 塩分制限は、食事の味付けが物足りなく食事が進まない場合がある。そのため、酸味や香辛料の使用、減塩加工品の利用など食事内容の工夫や外食の代表的な塩分量を説明する。

 
 
(4)二重負荷の回避

①外出や運動、入浴後は血圧の変動を最小限にするため、30分程度の休息をとり、次の動作に移る。

 (根拠) 二重負荷は血圧を上昇させ、心機能を低下させる。

 

 

 

 

#Aに対する教育計画(EP)

(1)服薬指導

 ①薬剤師と連携し、退院後の服薬管理についての指導をする。

 (根拠) 慢性期で重要なことは、血圧管理である。血圧コントロールで、再解離の発症を70%避けることが出来ると言われている。

 

(2)栄養指導

 ①栄養士と連携し、退院後の食事について指導する。

 (補足) 高齢者の場合、大動脈壁が動脈硬化により脆弱化、拡張していることも原因となるため、動脈硬化を促進させないように食事指導をしていく。

 

(3)禁煙の指導

 (根拠) 喫煙は末梢血管を収縮させ、血圧を上昇させる因子なる。そのため、高血圧症や動脈硬化が進行しているばあいには、禁煙が必須となる。

 


(4)家族や周囲への退院後の生活についての指導

 (補足) 生活習慣の調整を行い、新たな生活習慣の獲得を目指すには、家族や周囲の人の協力が必須である。

 

 

 

 

 

#D 血液量減少に関連したショック状態
患者の目標(到達目標)
 ・大動脈の解離の進行、破裂を起こさない


#Dに対する観察計画(OP)

(1)バイタルサインの観察

 (補足) 大動脈の破裂や解離の進行時は、バイタルサインの変動や疼痛の出現が観察される。そのため経時的に観察し、ショック状態を早期に発見できるようにする。

 

 

(2)ショック症状の有無と程度

 ・顔面蒼白
 ・冷汗
 ・頻脈
 ・呼吸速迫
 ・血圧低下

 (根拠) ショックを生じると、重要臓器の血流が維持できなくなり、生命の危機を生じる。そのため、ショック症状の観察をしていく。

 

 (根拠) 血管が破裂することで心タンポナーデ、胸腔内や他の部位への出血からショックを生じる場合がある。心タンポナーデは休止液における大動脈解離の死因として最も頻度が高い。

 

 
(3)疼痛の有無と程度、部位

 (根拠) 解離による症状として、疼痛は時間経過とともに部位が移行することがある。

 

(4)尿量・性状

 

(5)水分出納

 (補足) ショック症状や腎血流障害を起こしている場合がある為、尿の性状・水分出納を把握しておく。

 
(6)排便回数、量、性状

 (補足) 排便時に努責を書けると血圧上昇をまねくので、排便状態を観察し排便管理に努める。

 

 

(7)画像検査

 (補足) 画像検査は偽腔の血栓化や解離の進行度の確認の為に定期的に行う。

 (根拠) 心タンポナーデをきたしている場合、胸部X線上では上縦郭だけでなく、心陰影も拡大する。心臓超音波検査では、心嚢液貯留が観察される。

 

 

(8)心電図検査、モニタ心電図検査

 ①胸部レントゲン
 ②心臓超音波検査
 ③CT検査

 (根拠) 大動脈解離に特異的な心電図波形はない。しかし、大動脈解離や進行や瘤の破裂に伴い心拍数の上昇や不整脈が生じる。

 

(9)血液検査

 (根拠) 臓器壊死や腎不全を合併している場合は、LDH、BUN、Crも上昇する。

 

 

 

 


#D に対する看護ケア計画


(1)モニタ管理

 (補足) 大動脈の解離の進行や瘤の破裂を予防するために、慎重な管理をおこなっていく。 血圧は支持された値(※通常、収縮期血圧100~120mmHg)でコントロールする。

 


(2)点滴管理

①降圧薬
②麻薬性鎮痛薬

 (補足) 疼痛による血圧上昇は鎮痛薬によりコントロールする。不穏などの興奮状態の場合は、鎮静剤を使用する場合がある。

 

 

(3)許可された範囲内での日常生活の援助

①食事介助
②排泄ケアの介助
③清潔ケアの介助
 (補足) 安静臥床によりADLが制限されてしまう。そのため、血圧の上昇を来さないために、許可された範囲内での日常生活援助を行う。

 

 

(4)不安や訴えの傾聴

 (補足・根拠) 不安やストレスは血圧を上昇させる。突然の発症で、治療や検査、体動制限などにより様々なストレスや不安が生じるため、軽減を図る必要がる。

 

 

 

 

#D に対する教育計画(EP)

(1)疼痛が出現した場合には知らせるように指導

 (根拠) 疼痛の状況は大動脈解離の進行を表している。

 

(2)安静の必要性についての指導 

 (根拠) 疼痛が軽減し、自覚症状が消失すると許可された活動範囲を超えてしまうリスクがある為。