心筋梗塞の看護過程の展開
本記事の内容
- 心筋梗塞の患者への看護に必要な情報収集と解釈
- 主な看護診断と患者の目標(成果目標)
- 看護計画
心筋梗塞の患者への看護に必要な情報収集と解釈
1.患者の生活背景
①現病歴
・病状、治療の経過
・疾患への認識
・合併症
・運動負荷の評価
・リハビリテーションの評価
(補足)急性期は身体症状や一時的究救命処置・集中的治療による身体拘束感など、不安の要因となるものが多い。患者・家族が疾患をどのようにとらえ、理解しているのかを把握していく。回復期には自己の状態を受容し、長期にわたって自己管理していく必要がある為、疾患や治療を正しく理解出来ているかを把握する。
生命維持に関わる重要な臓器が障害されたことにより、死への恐怖、社会復帰への不安が生じやすい。したがって、疾患や治療を正しく理解し、自己の身体能力に応じた生活を送ろうとする前向きな姿勢が必要となる。患者の思いを把握する。
②既往歴及び再発の誘因となる危険因子の有無
・脂質異常症、
・高血圧
・喫煙
・糖尿病
・メタボリックシンドローム
・精神的ストレス
・高尿酸血症
・虚血性心疾患の既往歴
・性格的要素
(補足)これまでのライフスタイルの中から、冠危険因子を確認する。長期にわたって自己管理していくためには、患者個々の生活背景を十分に把握する必要がある。
③職業、生活習慣
④自己管理への意欲
2.全身状態
①栄養状態
・身長、体重、BMI
・偏食の有無
・入院中の食事内容
・栄養状態のデータ
(TC、TG、HDL-C、LDL-C)
(根拠)脂質異常症、高血圧、糖尿病は冠動脈の粥状硬化の原因になることからコントロールをしていく必要がある。コントロール不良の場合には、その原因を明らかにし、生活指導の内容を再考していく。特に食生活との関連が大きい。よって、望ましい食習慣の獲得を目標とする。また、体重増加を予防し、標準体重を維持できるように支援していく必要がある。
②排泄状態
・排尿回数
・排尿支障因子
・排便回数、性状、異常
・便通対策、排便支障因子
(コメント)排便時の努責は血圧や心拍数を上昇させ、再発作や心破裂をきたしやすいといわれている。そのため、看護介入早期から、排便状態についての情報収集をしていく。
3.活動と休息のバランス
①梗塞の発症時期と経過
(根拠)発症後72時間以内は重篤な合併症(致死的不整脈、心原性ショック、心不全など)により、生命の危機に陥る可能性が高い。そのため、梗塞発症時期にを把握する。
一般に梗塞範囲が広範囲であるほど予後不良である。梗塞範囲を知ることで合併症の発現を予測することが出来る。心電図モニタを装着し、持続監視を行う必要がある。
②合併症の出現状態と程度
●不整脈
・脈拍微弱
・欠損(結滞)
・心電図所見
●ショック兆候
・血圧低下
・意識障害
・チアノーゼ
・冷汗(四肢冷感)
・尿量減少
・アシドーシス
●心不全兆候
・水分出納
・断続性ラ音
・胸部X線所見
・動脈圧ガス分析
・中心静脈圧
・肺動脈楔入圧
・心係数
・全身倦怠感
・動悸
・息切れ
(根拠)重篤な不整脈の70~80%は発作後24時間以内に起こることが多い。また、発症後48~72時間に心室期外収縮が多発する。これも致死的不整脈に移行する可能性がある。
心原性ショックは発症後24時間以内の発症率が高い。そのため、死亡例の大半は発症後12時間以内に観察される。きわめて重篤な合併症であり、広範囲の梗塞が見られる場合には注意が必要である。
急性心不全は発症初期に起こることが多い。また、左冠動脈狭窄を伴う広範囲梗塞では心原生ショックに次いで重篤な合併症である。
③活動状況
・安静度
・リハビリテーションの内容
・運動負荷前後の変化の有無
・活動制限に対するバランス
(補足)急性期は心筋の酸素消費量を減少させるためにも心身の安静が必要になる。心負荷は再梗塞の危険がある為、兆候を早期に発見する必要がある。運動負荷による症状の悪化が観察された場合には、リハビリテーションの内容を変更する。
・ADLの状態
・患者、家族のリハビリテーションに対する認識
(補足)きゅうせいきには集中治療下で安静が必要とされ、日常生活を自力のみで行う事が困難になる。また、胸痛が強い場合には、呼吸困難を呈する場合があり、精神状態の混濁を生じやすい。これらによって、安静、安楽が妨げられ、不眠につながり、食欲不振、体力低下に繋がることがある。これらのストレスは心臓自体にもよい影響をもたらさないため、日常生活の制限に由来する苦痛が無いかを観察していく。
♯C 酸素の供給/需要のアンバランスに関連した活動耐性低下
④梗塞の範囲を示す検査データ
・心電図
・CK-MB
・ミオグロビン
・ミオシン軽鎖
・心筋トロポニンT
4.知覚・認知
①胸痛の状況と反応
・胸痛の出現状況、部位、程度
・胸痛の随伴症状の有無と程度
(冷汗、チアノーゼ、悪心・嘔吐、呼吸困難)
(補足)急性心筋梗塞は突然の強烈な胸痛から始まることが多い。胸痛発作は狭心症よりも激しく、その持続時間も長く、30分~数時間におよぶ、安静やニトログリセリンは効果が無く、モルヒネ塩酸塩により鎮痛を図る必要がある。
・胸痛に対する治療内容とその効果と副作用
・患者、家族の胸痛に対する不安の有無・内容
(補足)心筋梗塞に起因する痛みは生命に直結するため、患者は「心臓が止まってしまうのではないか。」という死への恐怖を感じる。そのため、非常に敏感になり、かつ不安も強い。また、患者を見守る家族も同様の不安や恐怖を感じる。患者・家族の不安の訴えや内容を把握していく。
♯D 状況の危機に関連した不安
・睡眠状態
②治療内容
・治療内容とその効果
・合併症
(急性冠拘束、不正脈、穿刺部出血、塞栓症、腎機能障害)
(補足)経皮的冠動脈インターベーション(PCI:)では、治療部位が急に閉塞する急性冠閉塞(治療直後から6時間以内に発症)。治療後に投与される抗凝固薬や抗血小板薬の影響による穿刺部からの出血に注意が必要である。また、カテーテル挿入によって血栓性閉塞症をおこすリスクもある。末梢動脈の触知や皮膚温の確認を行い、自覚症状、意識レベルに注意する。
冠動脈バイパス術では、術前からの心機能低下と手術侵襲、体外循環の影響によって心機能がさらに低下し、血行動態がさらに不安定になるため、低心拍出量症候群(LOS)に注意して観察する必要がある。
5.周囲の認識と支援体制
①家族の認識や協力
②生活環境
③仕事の内容、職場の理解
④社会的役割
⑤社会資源の活用状況
(補足)心筋梗塞は壮年期以降の患者が多いことから、自己管理継続のためには、家族や職場の人間の理解と協力が必要不可欠である。仕事の内容を確認し、家族や職場の人々の認識や支援体制について把握する。
主な看護診断と患者の目標(成果目標)
♯A 知識不足に関連した非効果的自己管理
患者の目標(成果目標)
・必要な治療を日常生活のなかで実践する。
♯B 循環血液量減少症に関連した心臓組織循環減少リスク状態
患者の目標(成果目標)
・致死的不整脈、新原性ショック、心不全などの合併症を起こさない
・再梗塞を起こさない
・合併症の前駆症状出現児は早期に治療を行う
♯C 酸素の供給/需要のアンバランスに関連した活動耐性低下
患者の目標(成果目標)
・必要日常生活活動が持続・遂行できる。
♯D 状況的危機に関連した不安
患者の目標(成果目標)
・不安を表出することが出来る。
・精神的苦痛が緩和され、心身ともに安定して治療を受けることが出来る。
看護計画
♯B 循環血液量減少症に関連した心臓組織循環減少リスク状態
患者の目標(成果目標)
・致死的不整脈、新原性ショック、心不全などの合併症を起こさない
・再梗塞を起こさない
・合併症の前駆症状
♯B に対する観察計画(OP)
(1)梗塞の経過と程度
①梗塞発症後の経過
②拘束範囲を示す検査データ
(補足)梗塞の発症時期と、梗塞巣部位、梗塞範囲などの情報から合併症の出現時期や症状を予測し、観察していく。
(2)合併症の兆候
①心電図モニターの24時間持続鉗子
・異常波形の有無
(異常Q波、ST上昇、冠性T波、心室期外収縮の有無と程度)
(補足)治療の特徴を理解し、それに起因する合併症の早期発見に努めていく。前駆的不整脈の出現状況から致死的不整脈への移行を予測する。観察中、異常波形が観察された場合には、12誘導心電図をとり、記録する。
②不整脈に随伴する症状の有無
・胸痛、胸部不快感
・意識状態
・顔色
・チアノーゼの有無
・脈拍減弱、欠損
・血圧低下
(補足)代表的な合併症として考えられる不整脈、心原性ショック、心不全について早期発見できるように、それぞれの症状について注意し観察する。
③心原生ショックの兆候の有無と程度
④心不全兆候の有無と程度
・水分出納(輸液量、尿量)
・中心静脈圧
・スワンガンツカテーテルによる肺動脈楔入(せつにゅう)圧と心拍出量のモニタリング状況
(3)合併症の誘因
(4)合併症予防の治療内容・効果、副作用
(5)患者、家族の疾患・治療に対する理解
♯Bに対する看護ケア計画(TP)
(1)安静保持への援助
①環境調整
・室温は18℃前後に維持し、湿度は40%程度に保つ
・患者の訴えに応じて寝具を調整する。
(根拠)安静は、心臓の仕事量、心筋酸素消費量、呼吸筋運動を減少する。循環動態の保持や梗塞巣の拡大阻止に必要である。
寒冷刺激は四肢血管を拡張させ、静脈還流を減少し、胸痛を増強させることがある。
(補足)安静臥床により、1日のリズムが変わり、24時間の心電図モニタ、点滴治療などの処置により、安眠が妨げられる。また、病状に対する不安や身体を動かすことが少ないため、肉体的疲労感が少なく不眠傾向になりやすい。
②体動制限内で可能な範囲で安楽な体位の工夫
・呼吸困難がある場合はファウラー位がとれるように援助する。
(根拠)ファウラー位は静脈還流を低下させ、心臓への負担を低下させることが出来る。
③睡眠促進への援助
(根拠)不眠による体力消耗やストレスは心負荷となるため、睡眠促進為の援助を行い、休息時間を確保する必要がある。
④排泄、清潔ケアの介助
⑤排便コントロール
(根拠)排便時の努責は血圧や心拍数上昇させ、再発作や心破裂をきたしやすいと言われている。そのため、早期から排便状態に関して情報収集し、下剤を服用するなどしてスムーズな排便を目指していく必要がある。
⑥会話への配慮
(根拠)会話も酸素消費量の増加に繋がる為、患者が「はい。」「いいえ。」で答える事が出来るように配慮する。
⑦口渇の緩和
(補足)食事摂取は心筋の酸素消費量を増加させるため、発症当日は禁食となることが多い。口渇などの苦痛に対し、氷片を含ませる、含嗽するなどの援助をしていく。
(2)確実な酸素投与
(3)確実な薬物療法
・血管拡張薬
・抗不整脈薬
・利尿薬
(補足・根拠)主作用と副作用の観察を行いながら確実に与薬していく。薬物療法は梗塞巣の拡大防止、低下した心機能の回復、心負担軽減などの目的で行われる。
(4)バイタルサインや自覚症状の観察
(補足)常に緊急処置がとれるように除細動器や救急カートの準備をする。
♯Bに対する教育計画(EP)
(1)発作の誘因についての説明
(補足)許可されていない動作や興奮などを避けるように指導する。処置やケア実施前に分かりやすく説明し、理解を得る。
(2)安静の必要性についての説明
(補足・根拠)心筋の酸素供給量保持のに安静を保持する必要があるという事を、患者自身が理解できるように指導する。
(3)現在の身体状況に変化があった場合には、すぐに知らせるように説明
(補足・根拠)患者は集中的治療を受け、24時間監視下にあることで拘束感が強い状態になる。そこに配慮し、治療・処置についてはその都度理解しやすい説明をし、不安を除去して治療に臨めるようにする。
♯C 酸素の供給/需要のアンバランスに関連した活動耐性低下
患者の目標(成果目標)
・必要日常生活活動が持続・遂行できる。
♯Cに対する観察計画(OP)
(1)梗塞の経過と現症、リハビリテーションの進行状況
(2)運動負荷前後のバイタルサイン、自覚症状の変化の有無
(3)精神症状、ストレスの有無
(4)日常生活の状況
(5)患者・家族の疾患とリハビリテーションに対する認識
(根拠)心筋梗塞後のリハビリテーションは、患者の残存している心臓予備能力の範囲内で、酸素の需要と供給を維持しながら徐々に生理機能を高めていく、運動の増加による心臓の仕事量が過剰になると再発作を起こすリスクが生じてしまう。したがって、その兆候の早期発見に努めていく。
♯Cに対する看護ケア計画(TP)
(1)リハビリテーション・プログラムに沿った実施
①運動負荷試験前後にはバイタルサイン、12誘導心電図をとる。
(補足)運動中に胸痛、息切れなどの自覚症状が出現、心拍数100回/分以上、収縮期血圧20mmHg以上の低下、心電図でのST波の異常が観察された場合には、運動過負荷兆候の出現と判断し、運動を中止し、医師に報告し対処する必要がある。
②運動中は心電図モニタ、パルスオキシメーターを装着し監視する。
③運動過負荷の兆候がある場合には中止し、安静を促す。
(補足)安静保持による苦痛除去、緩和を図る。急性期には絶対安静や集中治療が必要とされ、他者に身辺の援助を必要としていたが、症状が安定し、リハビリテーションが開始されるころには運動機能障害がないため、ADLを他者に依存することは精神的苦痛になる。その都度説明しながら行う。
(2)活動耐性に応じたADL援助
①プログラムに沿って、必要なADLを介助する
②前屈位姿勢に注意する
(補足)急性期(心筋梗塞発症から1~2週間以内)は身体労作に伴うバルサルバ効果(前屈位姿勢などにより胸腔内圧、腹腔内圧、脳脊髄圧が上昇し、静脈還流、心拍出量の低下及び動脈圧が減少する変化のこと)を避ける。
(根拠)脳や心臓の血流を低下させ、血圧の急激な変化を生じることにより、再発作の誘因となる。
③排便コントロール
(補足)下剤などで排便コントロールをし、努責をかけずに排便を出来るようにする。
④排泄の援助
(補足)PCI後1~2日は、排尿は膀胱カテーテルを留置し、排便はポータブル便器を使用する。
(根拠)症状排泄による努責は、ポータブル便器への移動動作よりもエネルギーが必要と言われる。
(3)精神的援助
①円滑なコミュニケーションを保つ。リハビリテーション中は患者のペースに合わせて、焦ることが無いようにする。
(補足)物的、人的環境を適切に整えることにより、二次的な身体症状の出現を予防する。
②性格や生活背景を考慮した環境を整える。
③面会時間を調整する
④仕事、家族などへの不必要な心配が生じないように家族の協力を得る。
♯Cに対する教育計画(EP)
(1)心臓リハビリテーションの必要性について説明
(2)リハビリテーションについての説明と指導
①リハビリテーション中の注意点について説明し、プログラムに沿って進めることが大切であるから、無理をしないように指導していく。
(補足)身体状態を観察しながらプログラムを進めていくことを説明する。プログラムが順調に進行しない場合、その理由を説明し、励ましていく。
また、心臓リハビリテーションは少しずつ負荷をかけながらプログラムを進行していく。自覚症状、心拍数、血圧、心電図変化を観察しながら、次の段階に進むことが出来るかを評価する。患者の心機能に合せて行うため、無理をする必要がないことを説明していく必要がある。
(3)心臓負荷兆候についての説明と指導
①心臓負荷兆候について説明し、リハビリテーション中に心臓負荷兆候があった場合には知らせつように指導していく。
(補足)患者の治療への参加を促し、今後のライフスタイルの変更調整に気付けるようにする。