本記事の内容
- 肺炎の看護に必要な情報収集とその解釈
- 主な看護診断
- 肺炎の具体的な看護計画
肺炎の看護に必要な情報収集とその解釈
1.患者の生活、社会背景
肺炎発症の要因となる背景、発症原因として何が考えられるか明らかにしていく。
肺炎の起因菌や悪化を予測するための背景や情報を得る。
①肺炎の現病歴
・年齢
若年層には非定型肺炎が多い。また、男性70歳、女性75歳以上では重症化しやすい。
・病状、治療の経過
②既往歴
・慢性閉塞性肺疾患(COPD)の既往の有無
・その他の基礎疾患の有無
慢性呼吸器疾患や他の基礎疾患(糖尿病、腎不全、心不全、慢性肝疾患、低栄養状態、誤嚥)のある患者では重症化しやすい。
③社会的状況
( 職場、学校、家庭環境、施設入居、入院環境etc)
市中感染、院内感染など、発症時の環境によって起因菌が異なる。
施設入居者では、施設内感染にて発症する可能性が高い。
④生活習慣
肺炎発症の原因理解、再発予防の認識と健康管理能力はどうかをアセスメントするための情報を得る。
高齢者や基礎疾患のある患者では、肺炎の再発予防が最重要となる。今回の肺炎発症の原因を明らかにし、患者・家族の健康の自己管理能力を評価し、再発予防策を考えていく。
・喫煙歴
・活動レベル
⑤健康行動
・活動レベル
・食事内容
・定期健康診断受診の有無
・感染予防対策(手洗い咳嗽)
・予防接種(インフルエンザ)
♯A 治療計画に関連した非効果的自己健康管理
2. 対象患者の全身状態
①栄養状態
食欲不振、咀嚼、嚥下力の低下が生じ、栄養摂取量が低下していないか情報収集、評価していく。
低栄養状態では、液性・細胞性免疫の両面において生体防御反応の低下をもたらす。低栄養状態では肺炎の重症化と難治化が生じるので、栄養状態の改善は重要となる。
経口摂取によって十分な栄養が摂取出来ない場合、経腸栄養や中心静脈栄養を検討していく。
♯B 食物を摂取出来ない状態に関連した栄養摂取-消費バランス異常と必要量以下
・食事内容、量、食欲の有無
・身長、体重、体重の変動
・口腔、皮膚、粘膜の状態
・検査データ
(特に注目するのはAlb TP Hb)
・食事(自立度、誤嚥の有無、食事にかかる時間)
高齢者や認知症・脳血管疾患の基礎疾患のある患者では、誤嚥を起因とする肺炎を生じやすい。そのため、食事中の嚥下状態や食事以外にも生じる不顕性誤嚥の有無を把握していく。
嚥下障害の確認には飲水試験や嚥下造営検査などがある。
・悪心、嘔吐
②輸液内容、水分・エネルギー量
③排泄状態
・便秘、下痢、鼓腸の有無
高齢者は体動の低下、発熱、脱水によって便秘に傾きやすい。また、下痢になると脱水になるリスクがある。排便のコントロール不良は食欲不振の原因になることも多いので、排便コントロールは重要である。
・排便の量、性状
・排便・尿支障因子
・水分出納
3.活動・休息のバランス
肺炎の重症度と呼吸不全はないかを観察していく。
肺炎の重症度判定には、身体所見、年齢による肺炎の重症度分類(A-DROP)が推奨されている。
①呼吸器症状
・バイタルサイン
重症化の兆候として、呼吸数30回/分の頻呼吸を、頻脈、血圧低下が観察される時は注意する。動脈血酸素分圧(PaO2)が低下し、60Torr(トル)以下になると組織に十分な酸素を供給できなくなる。チアノーゼの出現やSPO2:90%未満は呼吸不全と考えて対処する。
・発熱の程度、熱型
・呼吸状態(呼吸数、呼吸音)、喘鳴
・呼吸困難の有無
・咳嗽の有無と程度
咳嗽を効果的に行うことが出来ず、気道分泌物が貯留し、呼吸困難が生じていないか観察する。
発症後2~3日は粘稠性の黄色膿性痰が喀出される。脱水になると痰の粘稠度が上昇し、喀出することが難しくなる。高齢者では体力消耗により、効果的な咳嗽や排痰が出来ないと、気道分泌物が貯留して、回復を妨げる。
♯C 感染に関連した非効果的気道浄化
・喀痰の有無、性状、量、色調
・チアノーゼ
・胸、背部痛の有無と程度
②肺炎の重症度
・脱水の有無と程度、尿量減少
・意識レベルの低下
・ショック
③睡眠状態
④活動状況
安静・清潔状態は保つことが出来ているか評価する。
急性期の安静保持と皮膚・粘膜の清潔や航空内の保清は生体の防御能を高め、肺炎の治療効果を促進することが出来る。疾患の重症度と患者の自立度を把握し、日常生活の援助を検討していく。
・歩行(ふらつき、距離、時間)
・清潔(歯磨き、洗面、整容行動、入浴習慣)
⑤検査所見
CO2ナルコーシスを起こしていないか?
慢性呼吸器疾患を合併した肺炎や、重症化した肺炎などでは動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)が上昇し、45Torrを超えるⅡ型呼吸不全となる。その場合、不用意に高濃度酸素を投与するとCO2ナルコーシスに陥るので、酸素投与は注意する。
・動脈血ガス分析、SPO2
・酸素投与、投与方法
4.知覚認知の状態
急性期は早期治療により重症化の防止が重要である。患者自身が治療の内容を把握し、治療の場(外来、入院)や治療の実施に協力する必要がある。また、肺炎の原因を知ることで起因菌を予測し、早期発見、再発防止に役立てる。
①疾患についての知識
・病態、治療内容
・再発の可能性
②心理状態
・不安、不眠
発熱や咳嗽の持続、治療効果が明らかでない、入院期間の長期化によって不安が生じやすい。患者と患者の家族の思いを傾聴することで、不安を緩和するように努める。
・ストレスこーピング
③コミュニケーション能力
④苦痛の有無
肺炎による症状が強ければ、呼吸困難から不安感と不眠が伴う事がある。また、咳嗽や高熱の持続は体力が大きく心身ともに苦痛を生じる。体力を保持して疾患を回復させるためには、夜間の睡眠と安静を保持できるように援助していく必要がある。
・発熱の程度と持続時間
・呼吸困難の有無
・咳嗽と喀痰の頻度、性状
・胸、背部痛の有無と程度
・発熱による随伴症状(不眠、倦怠感、頭痛)
♯D 疾患に関連した症状(発熱や咳嗽)に伴う安楽障害
5.周囲の認識・支援、協力体制
緊急的に入院する場合も多い為、患者が家庭的・社会的んいどのような立場・状況にあるのかを把握して対応することが、安静保持や不安の軽減につながる。
必要な情報と根拠
①家族構成
入院中の患者にとって、顔z九の存在は慰安や支援となる。治療の為に安静が必要となり、高齢者では身の回りの動作に解除を必要とする。
心理的安寧のために家族の協力は大きいため、情報を得る。
②家庭内、職場内での役割
・対人関係
・周囲の人、家族への依存度
③家族の協力状況
・面会状況、キーパーソン
・家族の疾患への知識、指導への反応
(肺炎の原因・治療の理解、予後、再発防止策)
高齢者、基礎疾患のある患者では、肺炎の再発のリスクが高い。よって死の転帰となることもある。退院後も家族は予防策を把握し、再発の兆候はないか、見守ることが望ましい。
・退院後の協力者
主な看護診断
♯A 治療計画に関連した非効果的自己健康管理
♯B 食物を摂取できないことに関連した栄養摂取-消費バランス異常:必要量以下
♯C 感染に関連した非効果的気道浄化
♯D 疾患に関連した症状(発熱や咳嗽)に伴う安楽の障害
肺炎の具体的な看護計画
♯A 治療計画に関連した非効果的自己健康管理
患者の目標(成果目標):
患者・家族が肺炎の再発防止策を日常生活の中で実践できる。
♯Aに対する肺炎の観察計画(OP)
(1)患者の身体状況
①年齢
②ADL
③栄養
④認知力
(2)現病歴・既往歴
肺炎の発症原因を明らかにして、再発防止に必要な学習内容を精選する。
(根拠)肺炎を起こした個別的な原因を患者・家族が考えられるようにすることで、数ある再発予防のポイントを絞ることが出来る。
(3)入院前と退院後の生活環境
(4)生活習慣・嗜好
①活動量、活動内容
②喫煙、飲酒
(5)患者の学習意欲、知識(疾患・治療)、実践力
再発予防に向けて、患者・家族の理解と実践力を観察する。
(6)家族の理解力、協力
(根拠)高齢者では患者のみでなく、家族の協力が必要となるため、施設入居者では施設職員に伝える必要がある。
♯Aに対する看護ケア計画(TP)の具体策
(1)体力・栄養状態の回復・増強
長期入院患者や高齢者では、退院後の転倒や回復遅延を予防する為、早期に体力回復、栄養状態の改善を図る。
①床上での筋力アップを図る。下肢を中心として計画的に行い、基礎体力の回復を援助していく。
(根拠)高齢者では安静時間が長いと様々な合併症をきたす。臥床時から実施可能なリハビリテーションを行う必要がある。
②食事による栄養補給
タンパク質、エネルギー量、食事形態もとに戻し、摂取量を増加する
(根拠)食欲に応じ、流動食、粥食から早期に普通食へ戻し、栄養価を高めて体力増強を図る。
(2)行動範囲の拡大
大前提として、行動範囲の拡大は計画的に行っていく
(根拠)肺炎再燃のリスクがある場合は、回復状況、年齢、既往歴に応じて慎重に活動量を増やす、再び、発熱、咳嗽、喀痰などが出現するようであれば、中止して様子を観察する。
①覚醒時間を段階的に延長していき、室内歩行から始めて、活動範囲・活動時間を拡大していく。
②行動前後の呼吸・脈拍の変化、動悸の有無を確認しながら拡大していく。
③室外を歩行する場合、靴下などの着用と上着を一枚追加し、外気の刺激を避ける。
(3)回復への意欲と援助
①体力と体力への自信の獲得
②家族からの期待感を自覚させる援助
(根拠)家族の心理的な支えは、患者の回復に繋がる。よって、患者の存在価値を認識させる。
♯Aに対する肺炎の教育計画(EP)
(1)再発防止のための指導
高齢者や基礎疾患・合併症が存在する場合は、再発防止のための指導を行う。
①日常生活のリズムに規律を持たせる
②口腔ケア
③体力や筋力の保持・増進
(根拠)規則的に運動し、労作時呼吸困難の改善、運動脳能力の向上、酸素の効率的消費などの効果を狙う。
④高齢者・脳梗塞・認知症・逆流性食道炎などの既往のある患者には誤嚥防止の指導
(根拠)高齢者は咽頭にグラム陰性桿菌などの腸内細菌が容易に付着する。また老化に伴い免疫機能は低下する。
⑤インフルエンザ・肺炎球菌の予防接種を進める
⑥呼吸リハビリテーションの指導
・呼吸訓練(口すぼめ呼吸、腹式呼吸)
・運動療法(呼吸体操、上下肢筋訓練、歩行訓練)
・排痰訓練(体位ドレナージ、パーカッション、スクイージング、ハッフィング)
⑦呼吸介助法
・呼吸リハビリテーションは家庭においても継続できるように患者・家族へ指導する。
♯Dに対する観察計画(OP)
(1)臨床症状と苦痛の程度
症状に対しては対症療法を行う。安静の保持、苦痛の緩和に視点を置いて観察する必要がある。
自覚症状、検査データの両面から正確に肺炎の重症度、原因、進行を把握し状態に応じた援助を行う。
①バイタルサイン
・発熱
・血圧
・脈拍
・呼吸数
・意識レベル
②臨床症状
・咳嗽
・腹・背部痛
・喀痰の量、性状
・呼吸困難
・不眠
・全身倦怠感
・頭痛
・消化器症状
③検査データ
・血液検査(CRP、PaCO2、SpO2、BUN、Cr、Cr、CBC、Alb、TP、肝機能)
・腹部理学的検査
・胸部X線検査
胸部X線検査では、両側性の有無、陰影の面積、分布、性状(空洞)、胸水、進行速度などを観察する。
・微生物学的検査(痰培養)
痰細菌培養検査は起因菌を明らかにする為に行う。喀痰採取時には、口腔内の常在菌が無いように注意する必要がある。
(根拠)①~③については、入院直後からの変化を観察していく必要がある。
特に呼吸数30回/分以上、頻脈、血圧低下が観察されるときには重症化に注意する。
(2)治療内容とその反応
薬物療法・治療に効果があったか評価する必要がある。治療内容を確実に実施し、その効果と副作用を観察していく。
①安静度、日常生活の制限
(根拠)安静の保持や輸液による活動制限による苦痛が生じる。高齢者では、安静保持によって短期間でADL、認知機能が低下することがあるので、注意が必要となる。
②薬物療法(輸液量、内容、持続時間)
③酸素療法
(3)患者背景
(根拠)緊急的に入院することもあるため、対象ろなる患者が社会的、家庭的にどのような立場および状況であるのかを把握して対応することが、不安の軽減につながる。
①年齢
②入院前の生活
③職場環境
④家庭関係
(4)患者の認知と不安感
(根拠)特に高齢者では、環境の変化への適応が出来ない場合や、疾患や入院・治療の目的が理解できないことにより、不安が生じる。
①疾患
②入院、治療の理解
③認知レベル
♯Dに対する看護ケア計画(TP)
(1)苦痛の緩和
発熱、呼吸困難、不眠など身体的な苦痛をやわらげ、十分な休息と睡眠がとれるようにする。
(根拠)発熱時には、室温は低めの方が気持ちがよい。また、喀痰を促すために室温を保つようにする。
①発熱時は氷枕、氷嚢などを使用してクーリング
②胸部・背部痛に対しては、温湿布、吸入などによって緩和を図り、呼吸しやすいファウラー位とし、呼吸困難を軽減する。
③注射など、検査・治療に伴う苦痛を最小限にする
(根拠)急性期は処置が多いため、重複、二度手間とならないようにし、時間・方法などに配慮する。夜間の処置を少なくし、睡眠がとれるようにする。
④排尿時は、車いすにてトイレまで移送する。排便コントロールを図り、便秘や下痢を極力避ける。
(根拠)羞恥心を伴うため、排泄は重症時のみ症状排泄とする。また、努責により、苦痛が増すので注意をする。下痢による脱水、体力消耗に注意して観察する必要がある。
⑤夜間、熟睡感が持てるように援助する
(2)不安の緩和
入院、治療、処置に対する不安を緩和して、早期に安心して療養に専念出来るようにする。
①訴えの傾聴
②治療・処置の説明
・医師からの説明と理解の確認
(根拠)呼吸器症状があるため、会話により疲労しないように、訴えを速やかに理解し対処していく必要がある。必要時は面会者の調整も検討していく必要がある。
③安静の保持
④夜間の睡眠への援助
⑤精神的サポート
・遠慮なく相談でき、リラックス出る環境をつくる
・家族とのコミュニケーションを円滑にし、患者が安心して療養出来るようにする。
(根拠)入院によって、社会的、家庭的な役割を果たすことが出来ないことに対し、不安やいら立ちが出現しやすい。解決の為には家族の支援・協力が不可欠となる。
(3)確実な与薬
①薬剤の作用と副作用を観察しながら行う
(根拠)抗菌薬は72時間前後で効果が出現するか否かを判断する。72時間経過しても効果が観察できない場合は、薬剤を変更する。薬剤による副作用の出現も多い為、予測しながら観察を行い、副作用に対する援助を行う。
②酸素吸入
・呼吸不全があり、チアノーゼを認められるとき、
・SpO2が90%以下になれば酸素吸入を行う
・酸素投与量、投与方法は医師の指示に従い、呼吸状態、SpO2値、意識状態をモニタリングする。
(根拠)酸素投与量はSpO2を対象の患者にとっての最適値に近づけ保つのが良い。96%以上を目標とする。Ⅱ型呼吸器不全では、高濃度酸素投与によるCO2ナルコーシスに注意が必要である。また、呼気ガスの再吸入を軽減する為、低酸素流量で酸素マスクは使用しない。
(4)環境調整
①室温20~24℃前後とし、室温は60%前後に保つ。酸素吸入時には特に湿度を保持する。
②換気は1回/時間行う。塵埃の少ない環境を維持する。
③ベッド上、ベッド周囲の清掃、病室の整理・整頓
(根拠)塵埃は咳嗽を誘発する。また、痰の飛沫により、ベッド周囲は汚染されやすい。喀痰は感染源となる為、速やかな除去と周囲への拡散防止が望まれる。
④リネン類汚染は速やかに交換する
⑤喀痰の取り扱いは手袋を着用し、衛生的に処理する
⑥手洗いを徹底する。
・患者、面会者の指導。必要時面会制限
(5)身体の清潔
身体の疲労を最小限にするという大前提の基、清潔援助を行い爽快感を得られるようにしていく。
①含嗽、歯磨きを励行し口腔内の清潔を保つ
(根拠)喀痰や発汗により口腔や皮膚は汚染されやすく、かつ生体防御反応の低下により、皮膚・粘膜に新たな感染が発生しやすい。解熱するまで入浴は不可であるため、粘膜、皮膚の保清に努める。
②清潔は部分的に短時間で行う。また、発汗時には適宜行う。
(根拠)解熱時にはかなり大量の発汗が観察されることが多い。与薬の時間との関連で発汗を予測して速やかに清拭を行う必要がある。
③洗髪、部分浴は熱型と全身状態をみながら、短時間で行う。
(根拠)洗髪や部分浴などの清潔行為は、感染予防に加えて、爽快感や気分転換を与えることが出来る。
(6)水分と栄養の補給
栄養状態を維持することで、疲労感の軽減、体力の回復を促していく。
①水分出納管理を行い、適宜水分補給をする。
②消化が良く、栄養価の高い食事を摂る
(根拠)高熱による食用不振、消費エネルギーの増加、発汗多量による電解質の不均衡や脱水を起こしやすい。栄養状態の低下や褥瘡などを防止する。
♯Dに対する肺炎患者の教育計画(EP)
(1)安静の必要性についての説明
(根拠)自覚症状が無かったり、乏しい場合は安静の保持が守れない場合があるため。
(2)治療・検査の目的や予定についての説明
(3)家族の支援への依頼
(根拠)高齢者では入院。治療など環境の変化に適応できず、認知力の低下を起こすリスクがあるため、家族の支援は重要な要素となる。