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精神科実習・臨床前に知っておきたい【妄想】の理解と看護計画

妄想とは

 妄想とは、思考の障害の一つである。妄想の定義として『自己に結びついた不合理な内容を持つ、訂正不能で強固な個人的確信』とされている。
 妄想には、内容が以下の2通りに分けられる。
 ①他人にとって明らかに受け入れがたく、理解不能で通常の日常経験からかけ離れた  『奇異なもの』
 ②状況が違えば現実に実際に起こり得そうな『奇異でないもの』


上記2通りのいずれの場合にも、以下の特徴がある。
 ・強く確信している。
 ・訂正不能(病識がない。)
 ・妄想の内容が不合理である。
 ・妄想の内容が本人と関係している。
※妄想は、患者自身が妄想と判断することは難しく、観察している第三者により病的なものであると判断される。

 

 

妄想が出現する背景

 妄想は、ある特定の疾患にだけ観察される症状ではなく、多くの疾患で観察される症状(非特異症状)である。特に精神科領域においては、妄想が観察される疾患は統合失調症だけでなく、以下の疾患においても観察される
 ・気分障害
 ・妄想性障害
 ・急性一過性精神病性障害
 ・発達障害
 ・うつ病;微小妄想(罪業妄想、貧困妄想、心気妄想)
 ・躁病:誇大妄想、追跡妄想
 また、妄想性障害においては、想像上の家族や配偶者が迎えに来るといった訴えをしたり、近隣住民に嫌がらせをされていると主張するなど、孤独な生活や漠然とした不安感などに対する防衛機制として、あるテーマをもった妄想として体系化される場合がある。

 

その他の妄想の原因一覧

神経学的疾患:
脳腫瘍、脳血管疾患、てんかん、聴神経や視神経の損傷、片頭痛、中枢神経感染症etc
内分泌疾患:
甲状腺機能亢進(低下)症、副甲状腺機能亢進(低下)症、副腎皮質機能亢進(低下)症etc
代謝疾患:
低酸素血症、高二酸化炭素血症、低血糖
その他の身体疾患:
電解質不均衡、腎疾患、肝疾患etc
物質的要因:
非合法薬物(アンフェタミン、マリファナ、コカイン)、アルコール、ステロイド、L-ドパなどのドーパミン作動薬
 どのような精神症状であっても、まず身体疾患による影響かまたは、物質による生理学的作用かの検討をする必要がある。妄想の改善を図る為には、原因となる精神・身体の要因を見極め、原疾患に対する適切な治療を必要とする。

 

 

看護の実際と看護計画

1)ケアを行う上での留意点概論

 妄想のある患者は非常に敏感であり、曖昧な表現やごまかしを鋭く察知して不信感や妄想を強める。また、真剣な訴えを茶化したり、冗談めいて対応すると拒絶、軽視されたと感じる場合がある為、誠実かつ正直な態度で慎重に対応することが原則となる。
 妄想が現実のものではないことを理解させようと説得したり、議論したりすることは、患者の不信感や孤立につながり、信頼関係構築を妨げ、かえって病的体験へのこだわりを強めて妄想を強化する場合がある。また、看護師が妄想を現実のものと認めていると思わせるように振舞うことも、患者の妄想を強化してしまう。


2)ケアの実際・実践
(1)急性期における看護

 急性期における患者とは、完全に妄想に巻き込まれて病的体験と一体化しており、妄想と現実の区別がつかない状態とされる。妄想が強くて、自分を傷つける(自傷・自殺)、他者を傷つける(他害)がある場合で、どのようにしても問題行動か鎮まらないときに、最後の手段として精神保健法に基づいて隔離・拘束を行うことがある。また、興奮が著しい場合は電気けいれん療法が行われることがある。
様々な刺激が混乱や不安を高めたり、妄想を発展させたりする可能性がある為、安心して安全に休める為の物的・人的な環境調整を図る。その為、以下の点において環境調整を図ることが有効である。
・周囲の物音や採光(騒音の有無、明るすぎず、暗すぎない環境)
・ベットの位置
・所持品(危険物を持っていないか)
・現実的で必要最低限な人とのコミュニケーション
 急性期に病的体験の言語化を促すことは、妄想を発展し体系づけて強化するリスクが高い為、表情や仕草、態度などの非言語的コミュニケーションを重視して関わる。
 看護師は、患者との間に信頼関係を築くことが重要となる。したがって、安心して安全な治療と看護が受けられることを保証する。一例とし、インフォームド・コンセントの内容を分かりやすい言葉で説明する。
 病状の波や変化に合わせて、調子のよいときに介入の目的や意図を端的にわかりやすく説明し、安心・安全で現実的な関わりの中で日常生活のセルフケアを補う。特に、食事、水分、排泄、睡眠などセルフケア不足の影響による身体状態の悪化が著しい場合には、安全や生命維持を最優先として強制的な介入を要する場合もある。
 急性期においては、認知療法などの精神療法、家族への心理教育を中心とした家族療法も併用していく。家族は、対応に困っていた患者から一時的に離れることによって、もう一度患者に関わる気持ちが湧いてくる。家族同士で行う家族教室に参加することで自分たちだけではないという安心感や先輩からの助言などが役立つことがある。

 
(2)回復期における看護

 回復期には、妄想の強さがやや減弱し、除々に妄想の世界から離れ、現実検討能力と他者への信頼感が得られ、病的体験と現実を区別出来るようになる。刺激を避けた、安心・安全な環境から、徐々に刺激を増やして現実的なやりとりを増やしていくことが可能となる。しかし、急性期の疲労が持続している時期でもある為、心身ともに余裕がなく揺り戻しが生じやすい時期であることも留意する。
 エネルギーを消耗して活気なく休んでいる場合や、反対に病気がすっかり改善したように感じて不調であった時期を取り戻そうとして頑張りすぎる場合がある為、本来の調子に戻るまでは焦らずに休息することの必要性を伝え、無理のないペースで活動出来るように支援していく。特に統合失調症では、急性期後の抑うつ気分や思考力の低下だけでなく、睡眠障害、食欲の低下(又は亢進)、肩こり、頭痛、消化器症状などの様々な身体症状を呈する場合がある為、心身ともに慎重にケアする。この時期は徐々にセルフケア能力が高まり、日常的な生活が自立してくる時期でもあるので、看護師は不足しているところ(ex.金銭管理やレクリエーション)などを支援していく。
 過去の不調と現在の改善を自覚し妄想を言語化できるようになるが、症状の揺り戻しが生じやすい為、症状に意識を向けるやりとりは最小限にし、改善した点や健康的な側面に注目して強化する。
 また、確実な服薬をするためにはどうしたらよいうのかというところも指導していく。例えば、服薬カレンダーの設置、設置個所(家族やスタッフの眼が届くところに設置する)などを提案していく。
 作業療法やレクリエーションへの積極的な参加は、対人関係能力の回復につながる為、患者が参加できるように支援していく。

 

(3)慢性期における看護

 この時期には、妄想がほとんどなくなる場合と、固定化し持続しながらもそれに耐える力が強化され、病状に惑わされず生活できるようになる場合がある。病状の波や変化は目立たずに安定しているが、長い経過により、自尊心や自己効力感が低下しており、新しいことや変化に対する不安や抵抗感が強いことが多い時期である。したがって、出来ないことよりも出来ることに注目しながら、根気強く時間をかけて丁寧に関わる。
 妄想と上手く付き合いながら日日常生活を送ること、妄想の再燃・悪化を防ぐための服薬継続、そしてストレスコーピングの工夫について支援する。特に、症状の固定化や変化の乏しさから、身体状態が悪化しても、いつもの訴えとして見逃しやすいので、慎重にフィジカルアセスメントを行い早急に対処することが重要である。


3)家族への支援と配慮

 家族は、妄想による患者の言動や振る舞いに戸惑いや不安を抱えて日々対応している。その為、疲弊し感情的になったり、混乱したり、自分を責めたりしている場合が多い。まずは、これまでの家族の頑張りや苦労を傾聴し、混乱や不安を感じることは当然のことであり、一生懸命頑張るほど自分を責める気持ちになることもあるが、そのように感じる必要はないことを伝えて十分にねぎらう。
 その上で、病気や治療、患者との関わり方などの家族の具体的な疑問や不安に対して、時には看護師がロールモデルを示しながら、心理教育を行う。また、生活の場、相談できる相手、経済的な支援に関する社会資源の活用により、患者・家族に対する病院外でのサポート体制の整備をしていく。

 

2.アセスメントとケアプラン

1)アセスメントの視点

 看護が対象とするのは、『妄想そのもの』ではなく、それにより生じてくる日常生活の困難とそれに伴う不安や恐怖、苦悩を含めた『患者の生きにくさ』である。患者の多くは、妄想による不安や恐怖心を抱えて、生活上の援助を必要としていながらも、病的な言動や振る舞いのために他者と適切に関わることが出来ずに、孤立した状態に陥っている。看護師は、『誰かに狙われている』ことそのものについての解決を図るのではなく、病的体験による苦悩を抱えた患者のよき理解者として、妄想による不安や恐怖心を緩和しながら、『狙われているから食事がとれない、外出できない』など妄想により生じている日常生活上のセルフケア問題に対して、健康的な生活が送れるように援助していく。また、患者は現実的な問題を適切に認識したり表現したりすることが出来ないことが多い、訴えの内容を妄想によるものと決めつけず、現実に生じている生活の問題や社会的な不利益、身体状態の悪化に対するフィジカルアセスメントなどにより、客観的な事実を正確に把握する必要がある。
 患者が体験している世界を理解し、妄想の内容に応じて対応することが必要であるが、ここで重要な事を以下に示しておく
・妄想の有無を直接尋ねたり、内容をあれこれと聞き出すことはしない
  (妄想の有無を尋ねることによって病的体験に注意や関心を向けてとらわれる機会を増やし、その為により強固に確信し体系づけて病状を悪化させるリスクがある為)
 ex.)『誰かに嫌がらせをされている。』という訴えに対して、『どうしてそのように思うのですか?』『嫌がらせをされるようなきっかけがあったのですか?』などのように妄想の内容を詳しく質問することは、患者がそれを答える為に、さらに病的体験に注意を向けて発展し体系化させてしまい、妄想を悪化させる。
 妄想の有無や内容を観察したい時には、患者が自ら言語化するものを手掛かりに、表情や態度、行動などを観察し、既往歴や病歴、家族などの情報を合わせて現在の体験世界を推し量り、言語的コミュニケーションよりも非言語的コミュニケーションを重視していくことが大切である。
 ex)『誰かに嫌がらせをされる』とういう患者が、配膳時に緊張した表情で看護師の手元をじっと注意深く見ている、看護師のがコップに入れた水を一度捨ててから自分で水道水を汲みに行く、疑い深い表情で食事の匂いを嗅いだり、ごくわずかに味見をしたりそれ以上食べようとしない、下膳する前にこっそりと食事を捨てている、病院食には手をつけないが、自分自身で購入した物や未開封のものであれば摂取できているとする。家族から「統合失調症の疑いでクリニックへ通院歴がある。」「一人で食事を摂ることが多くなり、最近はずいぶん痩せてしまった」「自分を殺すつもりかと母親に詰め寄ることがあった」の情報がある場合、おそらく患者は「食事や飲み物に毒を入れられて命を狙われている」などのような被害妄想、被毒妄想により飲食物が取れない状態にあると予測される。それらのアセスメントに基づき、看護師が妄想そのものではなく、「食事が食べられるようになるにはどうしたらよいか」を話題にしながら援助し、その過程の中で、ふとした時に「売店で買ったものなら食べられる、毒が入っていないから」などのように、日常生活上の問題の背景にある理由として表出するものの中から、妄想の内容を敏感にキャッチしていく。