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せん妄の症状と特徴の理解と治療・看護まとめ

1.せん妄とは何か

せん妄とは、脳の働きの低下によって生じる意識障害の一つである。意識障害の程度は軽度又は中等度の意識混濁に、幻覚、妄想などの精神症状や不安・恐怖・興奮が加わった状態であり、複雑な意識障害の一つとして挙げられる。せん妄は身体疾患の治療を妨げ、他の身体合併症の原因となりうる障害である。

 

 

2.せん妄の出現する背景

 せん妄は急性・可逆性の脳の機能障害であり、次に挙げる3つの因子が発症に影響するとされる。


 ①直接原因

  ・脳疾患・脳に影響を与えるその他の身体疾患
   :脳梗塞、脳出血、てんかん、脳炎、髄膜炎など
  ・手術
   :手術による身体侵襲
  ・感染症
  ・脱水
  ・電解質異常
  ・低酸素血症
  ・代謝障害
   :肝不全、腎不全、高・低血糖など
  ・薬剤の副作用や中毒
   抗コリン薬、ステロイド、抗精神病薬、抗腫瘍薬、一酸化炭素中毒、覚醒剤、アルコール摂取又は離脱 

 ②準備因子

 せん妄を発症しやすい状態を準備する因子。(ex.高齢、認知症、脳血管疾患の既往)
脳血管疾患の慢性化や認知症の既往、高齢者など脳機能が低下している場合の発症率  

が高いと言われている。これらはせ ん妄の準備因子と言われている。


 ③誘発因子

 せん妄を発症するきっかけとなる因子。以下のものが例として挙げられる。
  ・睡眠障害、疼痛といった身体的なストレス
  ・環境変化
  ・精神的ストレス
  ・感覚遮断、モニターやカテーテル等にによる身体拘束感
 
 また、せん妄は認知症の症状と似ている為、発症の経過や持続期間などから鑑別する必要がある。

 

 

 

 3.せん妄の症状と特徴

1)主なせん妄の症状

 ①意識と注意の障害
  ぼんやりとして寝とぼけたような状態。夢と現実との境にいるような意識状態。注意散漫になる。
 ②認知変化(認知障害)
 ・記憶障害、失見当識(日時や場所がわからない)、
 ・疎通不良(考えや話の筋道がまとまらない。的はずれな応答、独語等)
 ③知覚障害
 ・誤解
 ・錯覚
  知覚の歪みの為、錯視や幻視が生じる。(天井のシミが虫に見える等)
 ・幻視、幻聴等などの幻覚
 ④神運動性興奮
 ・寡動:無気力や意欲の低下により活動性が低下し、動作が極端に鈍くなる
 ・多動:過度に動きが多く、落ち着きがない状態。
  ※せん妄による症状の場合は寡動から多動への変化が不規則で予想が困難である。
 ・反応性の低下
 ⑤その他
 ・不眠
 ・活動・休息の変化(落ち着かないなど)
 ・情動障害(興奮、不穏、ヒステリー)

 

 

2)特徴的なせん妄の種類

 ①夜間せん妄
  夜間の徘徊や幻覚・興奮が観察され、点滴の自己抜去などの危険行動がみられる。
 ②振戦せん妄
  手指から全身に至る振戦が出現する。
 ③作業せん妄
  その患者にとって日ごろ慣れている職業動作を繰り返すせん妄

 

4.せん妄状態にある患者への治療と看護

 せん妄ケアの基本は以下の3点となる。
 ・予防
 ・原因の除去
 ・症状に対する治療
 せん妄はその発症原因も、症状も患者によって様々である。多数の原因が存在していたり、複数の症状が見られることも少なくない。何がせん妄を引き起こしている原因なのかという見極めが難しい。看護師は患者の状態を観察し、原因の早期発見を心がける。 


1)せん妄症状の治療

 直接原因となっている身体疾患の改善や治療内容の検討が重要となる。しかし、認知症など直接原因への治療が困難な場合もある為、まずせん妄の症状を緩和するする為の一時的な鎮静を行う。鎮静には以下のような方法が用いられる。
 ・薬物療法
 ・電気けいれん療法
 以上の様な治療が用いられることが一般的であるが、逆にせん妄を引き起こしやすい場合もある為、選択と使用には注意を要する。


2)せん妄状態にある患者への看護

 せん妄状態にある患者への看護も治療と同様、直接原因の改善と共に誘発因子の除去改善を目指していく。また、せん妄状態の患者を目の当たりにした家族に対する精神的フォローや、アセスメントツールを使用するなど、せん妄発症の予防や早期発見に繋がる看護を実施することも重要である。

 

 


 

せん妄予防の為の看護

1)直接因子へのアプローチ

 観察項目
  ・原因疾患の観察(バイタルサイン、水分・電解質バランス等)
  ・使用薬剤の副作用の有無
 看護計画
  ・収集した情報のアセスメント
   患者の状態が本当にせん妄なのかという状態の診断と、せん妄を起こしている原因の診断をする。
  ・呼吸状態、発熱等の症状緩和
  ・医師と連携し点滴、使用薬剤の検討
   せん妄発症の時期と薬剤開始または中止時期が重なっていないかに注意する。

 

2)誘発因子へのアプローチ

 観察項目
  ◎身体面の観察
   ・睡眠状態(睡眠障害、昼夜逆転傾向等)
   ・疼痛の有無と程度
   ・栄養、排泄状態
   ・活動と休息のバランス
  ◎精神面の観察
   ・不安
   ・恐怖
   ・孤独感
   ・抑うつ
   ・失見当識の有無
  ◎療養環境の観察 
   ・室内環境(空調、照明の状況、騒音の有無)
   ・感覚遮断因子の有無(眼鏡、補聴器など)
   ・拘束因子の有無(身体拘束、モニター、カテーテル、点滴ラインなど)
 看護計画
   ・睡眠状態の改善(病室の環境整備、日中の活動量の確保、睡眠薬の導入など)
   ・疼痛緩和(マッサージ、体位変換、薬剤導入)
   ・栄養状態の改善(食事形態の変更、食事量の改善、活動量確保など)
   ・活動と休息のバランス調整(散歩等の刺激を与える、レクリエーションの導入)
   ・精神面での緩和(不安・孤独感の傾聴、共感、タッチング)
   ・環境整備(不要な拘束因子の除去)

 

3)準備因子へのアプローチ

 観察項目
   ・直接原因、誘発因子の有無とリスクの程度
   ・せん妄のアセスメントツールによる客観的情報の収集
    (せん妄を早期発見する為のツールとして、”せん妄スクリーニングツール:DST”がある。)
 看護計画
   ・患者、患者の家族への事前説明と理解の獲得
   ・患者、患者の家族の不安の傾聴と共感

 

せん妄状態にある患者への看護

 1)せん妄症状の観察
   ①出現時間
   ②出現までの経過
   ③症状の内容
 2)安全確保
   ①ベッド周囲の危険物の除去
   ②履物や病衣の裾を整える
   ③センサーマットの設置
   ④ナースステーションに近い病室への転室
   ⑤医師の指示に基づいて役薬物を投与する
   ⑥精神保健指定の指示に基づく身体抑制