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躁病(躁状態)の実践的看護と病態理解のポイント

はじめに~躁状態とは~

 躁状態とは、異常かつ持続的に高揚した、開放的または易怒的な気分が常に存在している状態のことである。躁状態においては、抑うつ状態と反対の症状が気分、情緒面、思考、認知面、意欲面身体面に認められる。疲労感を感じず、充実した状態になる。典型的には数時間から数日かけて急激に発症する場合が多い。発症直後は、患者自身が病識を持てない為、症状が進行することが多く、楽しい気分から易刺激・易怒的となり対人関係においてトラブルを生じる。また、判断力が欠如し、抑制がきかない為に性行動や金銭問題を起こしやすい。

 

 

躁状態にみられる症状

気分・情緒面

・病的爽快感
 抑うつと相対する感情。力感、健康感がみなぎり、自信にあふれ、全てが楽しく感じる気分。この感情は思考・行動面に反映し、多弁・多動となり、他人に干渉したり、欲求が妨げられると怒りやすくなり、社会的脱線行為に走りやすくなる。
 躁病の中核症状であるが、飲酒酩酊時に一時的に出現することもある。
・過大自信過剰
 自信にあふれ楽天的、何をしても楽しく感じる。
・易刺激的
・易怒的
・易攻撃性

思考面

・観念奔逸
・誇大観念
・楽天的
・飛躍的

意欲面

・精神運動興奮
・意欲亢進
 女性は化粧が濃くなり、男性は場にふさわしくないほどの正装をすることがある。
・行為心拍
・抑制欠如
・誘導性の亢進

身体面

・睡眠障害
 睡眠時間の短縮、早朝から活動を初め、不眠不休の状態になる。
・食欲亢進
・体重減少
・便秘
・下痢
・性欲亢進

 躁病なのか、単に気分の高揚なのか正確に判断する必要がある。問題行動を起こす前に適切な治療を導入する必要がある。
 双極性障害(躁うつ病)の場合、うつ病相から躁病相へ移行したときは、うつ病相からの開放感により、今まで出来なかったことを取り戻そうとしていることが多い。その為、自制することに対する患者の理解が得られない場合がある。


躁状態のステージ

◎気分におけるステージ
ステージⅠ
・感情不安定
・高揚気分
・行為に対して邪魔をされるとイライラする。
ステージⅡ
・うつ亢進
・敵意
・怒り
ステージⅢ
・不機嫌
・パニック
・絶望感

◎認知におけるステージ
ステージⅠ
・誇大的
・自信過剰
・場当たり的思考
ステージⅡ
・観念奔逸
・見当識障害
・妄想
ステージⅢ
・滅裂
・奇異な妄想
・幻覚
・関係念慮

◎行動におけるステージ
ステージⅠ
・行動亢進
・多弁
・浪費
ステージⅡ
・会話心拍の亢進
・攻撃
ステージⅢ
・異常な興奮
・奇異な行動

 

躁状態の原因・成因

1.身体的な疾患や投与されている薬物による躁状態

 ・中枢神経、脳血管疾患
  (てんかん、頭部外傷、多発性硬化症、脳梗塞、脳出血など)
 ・代謝性疾患
  (ビタミンB?欠乏症)
 ・電解質異常
  (低ナトリウム血症)
 ・内分泌疾患
  (甲状腺機能亢進症)
 ・自己免疫性疾患
  (SLEなど)
 ・感染症
  (腸チフス、HIV、インフルエンザなど)

2.精神科疾患の既往歴や家族歴

 精神科疾患の既往歴や家族歴を聴取し、情報収集する。双極性障害、パーソナリティ障害、不安障害、統合失調症などの患者が、病気や入院などを契機として症状悪化や再燃を来した可能性も検討する。

3.患者の性格特性、患者を取り巻く環境のストレッサー

 ストレスの防衛反応の一つとして躁的防衛が働き、躁状態として現れる場合もある。

4.躁状態が生じる病態生理

①生物学的要因
 躁状態においては、モノアミン仮説(脳内のアミノ酸から作られる伝達物質であるアミンが増加しているという仮説)が有力とされている。脳内のアミン代謝系の欠陥は、間脳の機能の先天的弱さの素因として個人にあるものと考えられている。
 アミンは主に間脳・下垂体系の各種ホルモンの分泌異常を引き起こし、ホルモンの分泌異常が生じる。このような場合、アミンの絶対量が増加するだけでなく、代謝回転の速度も増加していると考えられる。
②心理的背景
 発病や再発には、近親者の病気や死亡、生きがいの喪失などの喪失体験、身体疾患、仕事の過労、職場の移動や転職、昇進、退職などのライフスタイルの変化。経済問題などの心理社会的的要因が認められることがある。


5.躁状態の心理社会的反応

 躁状態は、症状によって人間関係を著しく損ねる可能性がある。患者本人は症状や現実に起きていることを冷静に認知し、行動することが出来ない為に、社会的・職業的機能に影響を及ぼし、社会的信用を失う結果に終わることがある。具体的には、自尊心の拡大、睡眠欲求の現象、活動の増加などの症状により、急激な仕事の拡大や起業などの行動をとることにより、負債を抱えるなどする。
 また、観念奔逸の症状では、例えば電話をかけられる人が迷惑するばかりか、電話で約束したことを本人が忘れてしまっていることが多く、患者自身の信用を失墜してしまうことがある。
 躁状態により、引き起こされている状況が、心理的葛藤に繋がり、ストレス反応として行動化される場合あがある。

 

躁状態の治療

 急性期の躁状態の時には、著しい気分の高揚や活動性の亢進の為に、社会的に逸脱した行動を示すため、迅速かつ適切な対応が必要で、精神科救急治療(医療保護入院などによる行動制限)の対象にもなる。
 治療の中心は薬物療法となり、気分安定剤(炭酸リチウム、バルプロ酸ナトリウム、カルバマゼピンなど)となるが、炭酸リチウムは効果が出るまで4~14日ほどかかる、ハロペリドールなどの抗精神病薬のうように、即効性が期待できる薬物を併用することによって、興奮した思考や行動をコントロールする。
 精神療法は睡眠時間の現象や周囲への逸脱した行為など自覚していることを問題にし、議論せず丁重かつ有効的な態度で、服薬や援助が必要な理由として働きかけ、治療関係の樹立に努める。

 

 

躁状態の看護ケアと根拠

1.観察ポイント

1)多弁・多動により他患者とトラブルを生じているか
 ①日常生活の様子
 ②他患者との接し方、迷惑行為やトラブル

 おせっかいや口出しをしていないか観察する。また、他患者からの苦情はないか観察する。
 ③スタッフとの接し方
 ④声量、言動の内容
 ⑤患者自身の抑制力の程度
 ⑥衝動行為の有無
2)注意散漫となり食行動が乱れる
 ①食事摂取量、時間、回数
  間食や飲み物の量が適切かどうか観察する。
 ②食事中の様子
 ③飲水量の増加
 ④他患者との食物のやりとりの有無
 ⑤体重の増減
 ⑥刺激食材の摂取
3)活動性亢進の為、夜間不眠となる
  ①夜間睡眠状態、睡眠パターン
  ②夜間不眠時の様子
  ③他患者への迷惑行為
4)身辺整理が出来ず乱雑になる
 ①身辺の整理状況
 ②自分の所持品があるか
 ③危険物や他人の物を持ち込んでいないか
 ④自分のベット周囲以外の場所に所持品を乱雑に広げ放置していないか
 ⑤患者間で物品の貸し借りの有無
5)多買傾向となる
 ①売店での購入状況
  買い物の品数や値段を観察する。
 ②通信販売に申し込んだりしていないか
 ③他患者から物を買っていないか
 ④家族に対し物を買ってくるように強要していないか
6)気分が高揚している為、病識の欠如があり無断離院をする可能性がある
 ①外泊・退院要求が強くないか
 ②訴えの内容、頻度
 ③頻回に自宅へ電話をかけて、外出・外泊を希望していないか

 

2.躁病(躁状態)への看護

 ・躁状態の特徴を理解し、薬物療法の効果と副作用について観察しながら、状態の変化、程度の違いに応じた援助を行う。
 ・患者の行動の背景にある、『そうせざるを得ない気持ち』をくみ取り、自尊心を傷つけないように配慮し、自己コントロール出来るように助言を行う。
 ・患者の問題行動に対しては、冷静にゆとりある態度で接する。
 ・日常生活行動において、患者が患者への干渉や横暴的な言動などで、周囲に悪影響を及ぼす場合は、安全な方法で行動の制限を検討する。
 ・患者の活発な行動に対しては、作業療法、リラクゼーションなど、そのエネルギーをレクリエーションになどによって発散する取り組みが必要となる。
 ・落ち着かない状態では、他患者とのトラブル回避の為、刺激を避け、静かな環境を提供する。
 ・予測される問題行動への配慮と、それを防止する為の治療環境を整える
 ・患者の躁状態や治療、看護の状況について家族に説明する。

 

3.躁病(躁状態)の急性期と看護

1)急性期(初期)の治療
 薬物療法が中心となる。薬物は気分安定薬が基本であり、興奮や攻撃性、自傷、他害行為、衝動性を伴う場合に抗精神病薬の併用が行われる。ECT(電気けいれん療法)が選択される場合もある。精神療法としては、支持的精神療法が中心となる。
 急性期には時間をかけて診察することが困難である場合が多い。急性期を脱してから、時間をかけて治療関係を築くことになるが、急性期においても、十分なインフォームド・コンセントを心がけて治療を行う。
2)急性期(初期)の看護ケア
 急性期では、躁状態が著しく攻撃的で、自分の状態を客観的に見る力が失われている。したがって、自傷・他害を防止し、安全を確保する必要がある。治療環境として、刺激の少ない、落ち着いた環境を提供する。
 身体面においては、食欲亢進、多飲水など水や食物の摂取への影響がある。行動面では活動性の亢進や睡眠欲求の減少による活動と休息の障害、清潔に気を配れなくなくなる。また、対人関係において、過干渉で無遠慮、自分勝手な行動に及ぶことから、トラブルが生じやすい。あらゆる日常生活のセルフケアの側面への観察、援助が必要となる。

 

4.躁病(躁状態)回復期の看護

1)回復期の治療法
 薬物療法、支持的精神療法を継続しながら、作業療法、認知行動療法、社会生活技能訓練(SST)を導入する。
2)回復期の症状
 易刺激・易怒的だった症状が収まり、行動や会話の内容にまとまりが出てくる時期である。口数や誇大的な発言が少なくなり、徐々に落ち着きを取り戻す。この頃になると、看護師の助言や制止にも耳を傾けることが出来るようになる。
 活動性も収まり、それまでの睡眠不足や興奮の疲労が出て、患者は休息がとれるようになる。薬剤の鎮静効果による眠気や便秘・低血圧、呂律が回らなくなるなどの副作用が出ることがある。
3)回復期の看護ケア
 患者の状態や能力に合わせて全面的、代償的なケアから一部代償的ケア、自分自身が自分の問題と関わっていけるように支援していく。


5.躁病(躁状態)慢性期と看護

1)社会復帰期
 ①社会復帰と治療法
 薬物療法、支持的作業療法は継続する。作業療法、認知行動療法、SSTが行われる。
 ②社会復帰期の看護ケア
 ・言語的な表現能力回復及び、対人関係の改善に向けた支援
 ・退院後の社会生活をめぐる患者の不安への対応
 ・定期・不定期の看護相談
  (心理的支援、問題整理、課題提示、具体策の提案)
 ・服薬指導と服薬の自己管理に向けた支援
 ・学習の成果と残された課題の確認(患者自ら相談・行動できるようにエンパワーしていく)
 ・外出・外泊計画の作成、退院前訪問および評価
 ・退院後の生活設計