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器質性精神障害とは? 高齢社会の課題と認知症

器質性精神障害:総論

 

高齢社会の課題

世界からみた現代の日本の社会的特徴は「高齢社会」と言える。2013年には65歳以上の人が25%を超え、つまり4人に1人が高齢者である。高齢化は今後も進行し、2055年の日本は、65歳以上の高齢者が人口の41%にのぼると言われている。厚生労働省2013年の報告によれば2012年時点で65歳以上の人の約15%にあたる462万人が認知症に罹患しているという。

 現在の健康長寿社会を築きあげた人々が認知症の好発年齢にあり、適切な認知症医療を提供する事は私たちの課題となっている。

 

認知症の分類

 認知症は、脳の病的変化(認知症疾患)によって、いったん発達した知的機能(認知機能)が、日常生活や社会生活に支障をきたす程度にまで持続的に障害された状態と定義されている。

 認知症を発症する疾患は多数あり、それぞれかなり異なった疾患である。いわゆる物忘れが主症状のアルツハイマー認知症、幻視が特徴的なレビー小体型認知症、人格変化や行動異常がみられる前頭側頭型認知症などの変性疾患、中枢神経の血行障害(大小の脳梗塞)によっておこる、脳血管型認知症。以上の4つが主要な認知症である。もちろん血行障害はすべての疾患に合併しうるで、診断は明確にできるとはかぎらない。

 

 

認知症の診断基準

 認知症の診断基準には、世界保健機関によるもの(ICD-10)と、米国精神医学会によるもの(DSM-5)の二つがある。今後は脳画像検査や血液検査などのバイオマーカーが診断基準に取り入れられていくと考えられる。NIA-AA(National Institute on Aging-Alzheimer’s Association workgroup)アルツハイマー認知症の診断基準では、アミロイドイメージングや髄液のタウが既に取り入れられている。

 

 

認知症の中核症状と行動・心理症状(BPSD)

 認知症の症状のとらえ方は従来から中核症状と周辺症状と分類されてきた。周辺症状は現在ではBPSDとよばれる。中核症状とは脳の障害による認知機能障害のことである。アルツハイマー認知症における記憶の障害が該当する。BPSDとは環境との相互作用により生じる行動や心理症状のことである。例えば、財布の置き場所がわからない時に、介護者が盗んだに違いないと信じたり(物盗られ妄想)、暴力に及んだりすることである。

 中核症状は治療困難である。しかし中核症状があっても、認知症を抱えつつ幸せに生活することは可能である。介護を困難にするのはBPSDである。一方でBPSDは治療が可能であることが多い。BPSDはかつて、「問題行動」といわれていた。これは介護スタッフにとって困る(問題になる)症状というくらいの意味で、患者にとっては何らかの理由があるのかもしれないことを、見えなくしてしまうと批判されてきた。例えば、対応に不満があるから苦情を言うという行為が「問題行動」とされてしまうこともある。

早期診断と早期介入

 認知症は他の多くの疾患と同様に、早期に診断し、適切に介入することで、予後を改善することが求められている。軽度認知障害(MCIminor neurocognitive disorder)とは正常加齢と認知症の中間的段階であり、記憶に限らず何らかの認知機能障害があるが、日常生活には支障がない状態である。一般高齢者の約1%が1年後に認知症に移行するが、MCIの高齢者では約10%が移行する。進行した段階での診断は比較的容易であるが、早期診断は難しい。

 ただし、早期介入といっても薬物治療によって進行を止めることが全てではない。(たいして効果がない場合も多い)患者や家族が認知症について学び、どのようなケアを望むのか(自宅で過ごすのか、施設利用を望むのかなど)を自己決定することがより重要となる。また、認知症になった場合に本人や介護者が最も苦痛に感じるのはBPSDであるので、これを予防すること(たとえば地域の社会活動に参加し社会的孤立を予防する)が重要となる。

 

 

新しい時代の医療

 認知症によって旧来の医療体制が変革を余儀なくされているという側面がある。したがって、癌治療などに対する技術的な高度先進医療とは異なった意味で、認知症もまた先進領域であるといえる。今後さらなる高齢化と認知症患者の増加に対して、これまでの医療提供体制では太刀打ちできない状況になる。日本は「課題先進国」などといわれるが、高齢化という現代社会の最先端の問題に直面している。