困った人だねぇ

看護師が書いた雑多ブログ

精神科における身体拘束中の看護と具体的実践について

 

はじめに【拘束の概要】

 身体拘束は、患者に対する最も厳しい行動制限です。身体拘束は患者の人権に影響するため、看護師として、患者の権利を守るために『精神保健及び精神障害者福祉に関する法律』(精神保健福祉法)を十分に理解しておく必要があります。
※身体拘束の定義として、厚生労働省は次の11種類が身体拘束・抑制にあたるとしています。

 ① 歩き回らないようにベットや車椅子に胴や手足をひもなどで縛り、歩けなくする。
 ② ベットなどから転落しないようベットに胴や手足をひもなどで縛り、動けなくす
 る。
 ③ ベットの周囲を柵などで完全に囲んだり、高い柵を使用するなどして自分では降り        られないようにする。
 ④ 点滴や、鼻やおなかなどにつける栄養補給のチューブなど治療のための器材を自分   
  で抜かないように、手足を縛ってしまう。
 ⑤ 点滴や、鼻やおなかなどにつける栄養補給のチューブなど治療のための器材を自分    
  で抜かないように、あるいは皮膚をかきむしらないように、指を思うように動かせ
  なくするミトン型の手袋などを使う。
 ⑥ 車椅子やいすなどからずり落ちたり、立ち上がったりしないように、Y字型の専用
  ベルト、腰ベルト(紐)などで車椅子・椅子に縛りつけたり、胴にぴったりと密着
  するテーブルをつけて立ち上がれないようにしてしまう。
 ⑦ 立ち上がる能力のある人を、座面を大きく傾かせたりする椅子に座らせるなどして    
  立ち上れないようにする。
 ⑧ 服を自分で脱いでしまったり、おむつをはずしたりしてしまう人に、介護衣(つな 
  ぎ)とよばれるような、自分では脱ぎ着ができない特殊な服を着させる。
 ⑨ 他の人に迷惑をかけないように、ベットなどに胴や手足をひもなどで縛る。
 ⑩ 興奮したり、穏やかでなくなったりした人を落ち着かせるために、鎮静させる効果 
  がある精神に作用する薬(向精神薬)を過剰に使って動けないようにしてしまう。 
 ⑪ 鍵をかけるなどして自分では空けられないような部屋に閉じこめる。
 まとめると、身体拘束とは患者自身が内的コントロールを出来ないことで、自分自身や他者に危害を加える可能性がある場合、また実行した場合に、一時的な外的コントロールとして行う処置ということになります。  
 患者さんへ出来る看護としては、拘束という外的コントロールを実施した場合に、患者自身が内的コントロールを出来るように、看護師はケアを行うことが大切である。
 

拘束実施時の観察

~拘束決定時の観察と基準~
 身体拘束の必要性を判断する基準は以下の3点となります。
 ① 自殺企図、自傷行為が著しく切迫している。
 ② 多動または不穏が顕著である。
 ③ ①②以外の精神障害で生命に危機を及ぼす状態である。
 拘束の要否は精神保健指定医が診察を経て判断します。しかし、看護師が医師に伝える患者の病状観察の情報によって判断が変わる場合もあるので、日々の患者の状態観察と記録を徹底しましょう。

 

~自殺企図・自傷行為が著しく切迫している患者とは~
 ・命令的な幻聴:ex「死ね」「殺せ」などといわれている。
 ・追跡妄想:ex借金とりに追われている。
 ・貧困妄想:ex生活するお金がない。
 ・心気妄想:ex癌が全身に転移している。頭が痛いのは、脳に腫瘍があるからだ。
 こういった妄想・幻聴などの精神症状が見られる場合には、自殺企図が起きやすいので十分に注意深く観察しましょう。また、絶望感や自責感、逃避感を感じていないかをアセスメントするために「もう駄目だ。」「自分は生きていけない。」「死ねば誰にも追われない。」といった言動がないか観察します。患者の言動から精神症状の有無をアセスメントするために看護師間の情報共有を徹底します。
また、上記のような精神症状が無い場合でも、多額の借金をしており、完済する手段がない。リストラにより再就職先がない。喪失体験(家族、近親者の死)等から絶望感、無価値観等を感じているときも自殺企図の危険性が高い為、注意して観察する。
 また、患者が実際に死の準備をしている場合がある。
 ・今まで治療を受けてきたにも関わらず急に治療を拒否し始める。
 ・突然、食事や水分などを摂取しなくなる。
 ・『お世話になりました』と状況に合わない挨拶をして、急に荷物を整理し始める。
 ・急にすっきりとした表情になる。
 これら等の患者の行動は自殺の準備(予兆)であることもある為、注意深く観察しましょう。
 また、以下の患者の行動がみられる場合には特に自殺企図の危険性が高いので、行動を細かく観察する必要がある。
・自傷行為を繰り返しているがその理由を言わない。
・自分の話を避ける。
・看護師が患者から目を離した隙に何かを隠そうとする(薬、刃物など)。
・壁に頭を打ち付ける、タオル・シーツ類を首に巻き絞める動作をする、
・手首などに躊躇い傷がある、ライターの火をじっと見つめている。
 

~多動または不穏が顕著な患者とは~
 被害妄想(ex他の患者にバカにされている)や誇大妄想(ex私は天皇の子孫なのだから偉いんだ)などにより他者に暴力を振るおうとするか、興奮、衝動行為(急に走り出す、大声で叫ぶ、急に怒りだす、物を壊す)の制止ができない状態であるかを観察する。また下記のような状態を観察し、医師に報告し薬物療法が開始された場合、薬物治療を行った後の効果を観察し、拘束しないで治療に臨めるか観察する。
 極めて重要な観察項目をリスト化すると以下の通り。 
 ・重篤な躁状態で落ち着かずない
 ・多動
 ・多弁
 ・易怒性
 ・攻撃性
 ・このような状態を自分で制止することが出来ず、疲労困憊な状態である。

 
~上記以外の精神障害で生命の危機にさらされている患者とは~
 何らかの原因で意識障害、昏迷状態等であり、人工呼吸器、挿管チューブ、輸液ラインなどを装着・使用しており、抜こうとする動作、嚙みちぎろうとする行動がないか観察しましょう。これらの状態を観察した場合、まず拘束以外に治療の方法がないか考慮します。(あくまで身体拘束は最終手段です。)
薬物治療を拒否する場合や、薬物治療は受けるが副作用が強く、症状に見合った薬物量が使えない場合、症状の程度(自殺企図、自傷行為、多動・不穏、輸液ラインの自己抜去等)を慎重に観察し、他の治療法を検討しましょう。
 薬物療法・精神療法実施後も効果が上がり、症状が回復するまでは、患者または他者(医療者や面会者など)に危険が伴うこともあるので、慎重に観察を継続する。
 


拘束決定後の観察と看護について

 拘束実施を決定したときから医師、看護師は患者の状態・症状を改善するためにどのような治療、ケアをすればよいか話し合い、拘束の解除基準を一致させることが重要です。そして、安易に拘束を長期化しない為に積極的な治療、ケアを考えていく。緊急を要する場合は、拘束をした後、必ず身体拘束解除基準を一致させることが必要である。
 拘束解除について、自分の治療に参加できるように具体的で、且つ分かりやすい目標を、可能な限り患者とともに設定する。それにより、患者自身の治療意欲が湧いているか、内的なコントロールを高めているかを観察しましょう。
 抑制帯の選択に際しては、患者の特徴を観察することで、抑制帯の種類を決定する。抑制帯の種類を判断するための情報をリスト化すると以下の通り。
 ・患者の症状(自傷行為、他害行為、輸液ラインの自己抜去等の切迫性の程度)
 ・体格(肥満、やせ等)
拘束の方法は3種類あり、以下の3通りである。
 ・部分拘束(上肢、下肢等)
 ・全身拘束(四肢・腹部)
 ・全身拘束+肩拘束
まず、患者自身や他者の危険の程度をアセスメントする。そのうえで、抑制帯の種類、四肢用の抑制帯の長さを判断する。また抑制帯の種類はマグネット式抑制、布製の抑制(徒手抑制)の2種類がある。布製の抑制を使用する場合は解いて首を絞めることもあるので注意する。例えば、体格がよく、肥満で症状の勢いも強い患者の場合には、マグネット式抑制帯のサイズの大きい腹部用、四肢用の抑制帯を使用する。
 


拘束実施直前の準備と看護師の役割

 拘束は患者にとって厳しい処置である。拘束を実施することを説明した時点で、パニック状態に陥る患者も少なくない。その為、拘束を実施する時は、インフォームド・コンセントを行うことが重要である。インフォームド・コンセントの内容は、以下の通りである。
 ① なぜ拘束を行うのか。
 ② いつまで行うのか。
 ③ どうしたら拘束が解除されるのか。

 医師がインフォームド・コンセントを行う場合、看護師としてその場に立ち会い内容を聴きましょう。そこで重要なことは、“患者の反応”である。患者が拒否的な反応を示すのか、黙ったままなのか、質問するのか、患者の反応を観察し、同意の程度を把握することが重要です。これらを観察することによって、看護師として何を説明に加えればよいかを決定する際の情報となる。説明を加えるとは、患者がこれから行われるであろう身体拘束の『どういった点』に対して抵抗・拒否を示しているかを説明として加えるということです。例えば医師より「今は病気の状態が良くない為、自分で自分の行動を抑えられず、他の患者に迷惑行為をしてしまうし、薬を飲むことも出来ないようなので2~3日程度、拘束を行いたい。ただし、処方された薬を毎回拒否無く飲めるようになって、自分の行動が抑えられれば、もっと早く身体拘束を解除したいと思います。」と説明したのに対して、患者が「怖いから嫌だ!」と反応していた場合は、拘束に対して恐怖を感じているとアセスメントできる。この時、看護師は患者の身体拘束に対する恐怖を受容・共感した言葉がけをする。また、身体拘束中は最低でも30分に一度は訪室して日常生活の援助を行っていくことを説明し、患者に安心感を与えることが重要である。
 また、患者によっては、暴力を振るったり、大声で叫んだり、動き回るなどして身体拘束に対して抵抗する場合がある。このような興奮状態であったとしても、拘束の目的と解除の基準を説明しましょう。患者は、拘束実施時のことはよく覚えていることが多い。説明を十分にしないまま拘束した場合、患者は自尊感情を傷つけられ、看護師に憎しみを持ち、攻撃的になり、治療を拒否する場合があります。その上、患者との信頼関係をも失ってしまうかもしれないので十分な配慮が必要です。
 

~看護師(医療者)の安全のために~
 拘束をされることは患者にとって苦痛である。その為、拘束に対して抵抗を示し、暴力を振るうことがある。患者が看護師に行う抵抗としてよく見られるのものをリスト化する。
 ・看護師のポケットなどに入っている物を取って攻撃する
  (ボールペンで刺す。ネームホルダーや紙を引っ張たりする)
 ・手や足などに噛みつこうとする
 ・お膳やコップなど、部屋に置いてあるものを投げつける。
 ・口に含んだ水分を吹きかける。
拘束実施に不慣れな看護師の場合、拘束実施時、自らの安全確保を忘れがちなので、落ち着いて実施の準備をする。
 看護師は拘束する前に安全が守れるように、ポケットの中に入っているもの(ハサミ、ボールペン、手帳など)は全て出しておく。また、ネームホルダーなども取り外し、拘束帯をつけるマグネットと鍵のみ持っていく。
また、拘束時に、看護師の手を引っかいたり、手を噛もうとしたりすることもあるので、手袋をして、拘束を行うことが望ましい。
 


拘束実施時の看護と観察

 患者の自傷行為、多動(休息せず動き回る)、不穏(大声で叫ぶ、暴力を振るう等)、生命の危機(輸液ラインの自己抜去、NTラインの自己抜去等)の程度を観察して拘束の方法や医療者の協力を要請しましょう。
拘束実施の技術が未熟な時は、看護師自身の緊張感が高くなり、拘束実施中に患者に対する説明も言葉数も少なってしまいがちになります。すると、切迫した雰囲気となってしまい、患者はより強い恐怖心を抱いてしまいます。すると、精神状態や治療にも影響する。その為「拘束させてもらいますね」「苦しくないですか?」といった患者が安心できる声かけを十分に行いましょう。
 興奮状態で自己コントロールが難しく、暴力を振るう患者を拘束する場合には、その患者の体格(肥満、やせ等)を観察し、安全に拘束できる十分な人数(5~7人)を集めて実施しましょう。十分な人数を集めることで患者も抵抗しないで拘束に応じることもあります。患者が強い抵抗をしないことで、患者と看護師両者の安全を確保することが出来る。興奮し、暴力的なときは、仰向けにすると暴力を制御できない時もある。そのときは、うつ伏せにして顔を横に向け、呼吸困難が起きていないか観察しながら両手を腰部で押さえ抗精神病薬を投与し、患者の両上肢、両下肢の抵抗力が弱くなってから拘束をする場合がある。仰向けにして拘束する場合は、四肢の両関節部位(膝関節、股関節、肩関節、肘関節)の屈曲の程度を観察して、その患者が抵抗する力に合せて関節の上から制御し、頭部を押さえて腹部、四肢の拘束をする。看護師は患者の緊張の程度を観察するために、患者にタッチングをしながら、安心できる声かけをして、患者が抵抗を示す時のみ力を制御して、拘束に誘導する技術が必要である。
 

~抑制帯を装着するまで~
拘束をする前に必ずボディチェックを行いましょう。最低限持っていないか確認する必要があるものをリスト化します。
・ライター
・ハサミ
・ガラスの破片
緊急を要する時は、抑制帯装着後にボディチェックを行っても良い。
また、片側(右上肢、左上肢等)のみの部分拘束は、抑制帯のついている部分のみ残しベットから転落してしまうリスクがあるので、必ずベッドの両サイドから拘束を行う。
 抑制帯を装着する時は、抑制帯の当たる部位(手足、手首、肩など)に血行障害が生じやすい為、抑制帯と抑制部位に指が1本入るように装着する。腹部に抑制帯を装着する場合は、腹部と抑制帯に2本指が入るように装着する。
拘束部位に生じやすいトラブルをリスト化すると以下の通りになる
・擦過傷
・発赤
・しびれ(血流障害の為)
・増悪する浮腫
 マグネット式抑制帯の場合、確実に拘束が出来ているかを確認する為、パテントボタンで止めて固定し、確実に止めてあるかパテントボタンを引っ張ってみる。自傷行為のリスクや興奮が強い時は、抑制帯をすり抜ける恐れがある。すり抜けは、すり抜ける際に抑制帯によって胸部を強く圧迫するなど、生命の危機がある為、出来る限りすり抜けが出来ないように工夫する。
 すり抜けをしようとする動作が観察される場合は、抑制帯と抑制帯の当たる部分を2分の1本程度しか入らないように程度に狭くして装着する。布製の抑制帯の場合はほどいて首を絞める等の自傷行為の恐れがある為、抑制帯は手の届かないところで結ぶ。また、すり抜けや自己抜去を防ぐために、ミトン拘束を行うことも効果がある。その場合は拘束力が強くなるので、すり抜けのリスクがどの程度あるのか観察、アセスメントすることが重要です。
 
 
~抑制帯の長さの調整~
自傷行為、他害行為、輸液ラインの自己抜去の可能性を観察し、症状の程度や変化に合わせて抑制帯の長さを調整・選択する。例えば、自傷行為の恐れが強いときは、抑制帯で自傷しないように、または他者の危険を予防するために、四肢の抑制帯を短くして、可動域を狭くする。
 
 
~拘束中の患者の観察と環境整備~
 抑制帯を長くした場合、患者にとって四肢の可動域が広がるというメリットがある一方で、壁に上肢、下肢が当たる恐れが強くなるというデメリットが生じる。したがって、抑制帯を長くする場合には、ベットの周囲に危険がないかを観察、調整する。抑制帯の装着終了後や退室時には、もう一度抑制帯が正しく装着されているか、抑制帯と抑制帯が当たる部位に指が入るか、パテントボタンを引っ張り確実に止まっているか、ベットの位置が四肢を伸ばしても、壁に当たることがないか、生活物品に四肢が届かないかを観察する。
 

~身体拘束実施中の日常生活への援助~
 拘束中も安全、安楽に日常生活を送れるように、病状の程度や変化を観察して、食事、排泄、清潔の援助を行いましょう。また、日常生活を援助する中でも、適宜、四肢の末梢の冷感、チアノーゼなどの血行障害、筋肉痛、関節の拘縮等の運動障害などの身体症状を観察し、被害妄想、無罪妄想、幻聴、幻覚、的はずれな応答、拘束のストレスによる拘禁反応などの精神症状を観察することで、より早期に患者さんの変化を観察することが出来るようになります。
 
【清潔】
 清潔ケア時は、皮膚障害・皮膚トラブル予防の為の援助をしていく。観察項目として、以下のものが挙げられる。
・発赤
・チアノーゼ
・抑制帯による摩擦の擦過傷
・抑制帯の圧迫による褥瘡
長時間の同一体位となることを防ぎ、保湿クリームの塗布、マッサージなどをする。拘束中であっても全身清拭、洗髪、洗面、歯磨きを行い、清潔を維持し、患者に爽快感を与える。手浴、足浴は爽快感を与えるだけでなく、血行障害の予防にもなる。また、爪の状態を観察し、伸びている場合は他者への危害(爪で引っ掻く、爪を立てて皮膚をつねる)になる恐れもあるので、伸びている爪を短く切りましょう。
 
【食事】
 食事の援助を行うときは、ギャッジベットで座位にしてから腹部の拘束で胃部を圧迫していないかを観察する。圧迫している場合は、腹部と抑制帯の間に指が3本入る程度に緩め、食事介助を行う。病状が安定している場合は、両上肢を解除して自分で食事を摂取することも考慮する。この際、独断で判断することは避け、他の看護職員、医師と相談した上で食事時の両上肢解除を検討することが肝要です。急な病状の変化による興奮や、自傷がないかを観察する。異常時には、すぐに他の看護職員を呼びましょう。
食事内容は消化の良いものや本人の嗜好を取り入れることが好ましい。水分は患者が自由に飲めない為、訪室時に口渇の有無と1日の水分量を観察し、適宜、水分補給を促す。
 
【排泄】
 拘束中は便秘になりやすい。便秘になりやすい原因として、以下のことが考えられる。
・抗精神病薬の服用
・拘束による運動制限、
・ストレス
・腸蠕動運動の低下
便の性状、量、回数を観察して必要時、腹部マッサージ、水分補給、下剤調整を行うことで便秘を予防していく。便意、尿意があっても、排泄を希望することは羞恥心があるので、我慢していないかを観察する。病状が安定している場合、拘束を全解除してポータブルトイレを使用するが、急に暴力を振るう、急に自分の首を絞める、急に輸液ラインを抜去するなど、病状の変化に注意する。鎮静を目的とする拘束は、留置カテーテルを挿入する場合もある。そのときは訪室時にラインが引っ張られていないかを観察し、ズボンの中を通して下肢に沿ってラインをテープで固定するなど保護の工夫が必要である。

~拘束部分解除、全解除と解除拡大~
 拘束中の患者の日常生活から病状がどのように変化したかを観察することは、拘束解除の拡大を判断する情報となる。一例をリスト化します
・食事時のみ両上肢の拘束を解除し、食事終了後抵抗なく再拘束に応じることが出来る。
・自傷、他害行為がみられない。
・輸液ラインなどの自己抜去がみられない。
このように。治療を受け入れる行動が増えれば、精神状態は安定の方向に進んできたとアセスメントすることができる。医師にその情報を伝え、医師も同様に判断した場合は、患者に病状が改善してきたことを伝える。このように拘束中の日常生活の過ごし方から病状の改善がどの程度みられたか観察することが重要である。また、確実に毎回服薬をすることが出来る、自傷しないと約束できる、暴力を振るわない等の行動がとれるかなど、拘束解除目標に患者が達成しているかを観察しましょう。
 

~血行障害、運動障害・深部静脈血栓症の予防~
【血行障害】
 抑制帯で拘束されている部位は圧迫され、血行障害が起こしやすい。その為、拘束中は最低限30分から1時間に1回は訪室し、手指、足指の冷感、発赤、チアノーゼ等の血行障害の有無を観察しましょう。興奮、不穏症状がないときには、四肢の一部の抑制帯をはずし、マッサージを3分程度行う。
拘束した部位から下部の末梢が赤紫色になっていた場合、または浮腫が認められた場合は、抑制帯を緩める。患者が抑制帯をすり抜ける可能性があるときは、マッサージの時間を延長するなど工夫をする。また、同一体位により圧迫している部位に、発赤、表皮剥離、褥瘡ができていないかを観察し、除圧のために最低3時間に1回は体位変換を行う。

【運動障害】
 拘束により運動が制限されるため、廃用症候群や関節拘縮を起こしやすい。この時、観察のポイントとなることが、患者の運動機能の低下の有無である。患者から直接聴取すべきことをリスト化します。
・筋肉痛み
・腰痛
・肩こり
・四肢のだるさ
・観察のこわばり
以上のことを聴取した後、直接患者の筋肉に触れ、筋肉の張や硬さを観察しましょう。
また、運動障害の予防・改善策として、興奮、不穏症状がないときに四肢の一部の拘束をはずし、関節運動、ストレッチ、マッサージを行い、清潔ケア時には温湿布をするように清拭方法を行うことで運動障害を予防しましょう。
 
【深部静脈血栓症】
 ・生活習慣病(糖尿病、肥満など)を併発している患者
・長期に拘束されている患者
以上の患者は、血流が滞り血栓が大動脈につまり、深部静脈血栓症を起こしやすい。したがって、弾性ストッキングの使用、水分管理、マッサージケアが必要である。また、できるだけ早期に拘束を解除することが合併症の防止になります。
 

拘束解除時の看護と観察
 身体拘束の解除の基準として、患者が拘束解除目標を達成しているかどうかを観察する。拘束解除目標が達成しても、医療者の予期不安から、拘束を延長することがある。この、医療者の予期不安から拘束を延長してしまうケースは意外と少なくない。このようなことがないように、医療者は拘束の目標が何であったかを常に意識し、拘束解除目標の達成の程度を観察して、決定する必要がある。拘束解除が決定したら、患者と一緒に拘束中の行動を評価する。目標が達成できた患者は褒め、医療者も嬉しいことを伝え、達成感を共有する。これは、患者も治療に参加して、自分自身で病気を改善することに繋がる。
 拘束解除目標が達成しない時は、拘束の解除をすることが出来ない。なぜ拘束解除が出来ないのか、治療、ケアの問題を医師、看護師で話し合い評価、修正する必要がある。その結果を患者にインフォームド・コンセントする。拘束解除時と同様に患者の反応を観察する。観察項目の一例をリストかします。
 ・口数が減り、黙っている。
 ・表情が乏しくなる。
 ・『頑張っても病気は治らないじゃないか!』などの意欲の低下の有無。
 ・怒声など怒りの表出。
  
 

拘束解除後の看護

拘束解除後も、精神症状や病状の変化を観察する。
 ・希死念慮
 ・大声などの易怒性
 ・輸液ラインに触れる、抜去する。
患者の病状が不安定なときでも早期発見すれば、拘束という最終手段の治療を実施しなくても他の治療で改善できることが多いからである。また拘束解除後も拘束中の約束が継続して守られていることを患者とともに評価することで予防につながる。
拘束中は、臥床中心の生活をしているので、筋力の低下によるふらつきがみられる。また、臥床中心の生活と薬物治療による起立性低血圧によるふらつきを起こす可能性もある。そのため、拘束解除後はふらつきの有無と倦怠感の有無を患者に聴取し、立位時のふらつきと血圧を観察する。ふらつく時は、転倒を予防するために付き添いの必要がある。患者は臥床中心で看護師が日常生活の援助を行っていたので、拘束解除後は、食事、排泄、睡眠、清潔など生活が自力で行われているか観察して、必要時には介助する。
 


患者の家族への支援

 拘束治療は、家族にとってもショックな出来事である。拘束帯をされている患者を見て、「見ていられない。」「仕方ないと思いますがかわいそうで」と言われることも多く、面会時にすぐに退室してしまう家族もいる。看護師は、家族の理解度を言動から観察して、再度医師から説明を受けるよう調整する。
患者の家族は、拘束中の入院生活をどの様に送っているのか不安に思っているので、食事、排泄、清潔保持など患者が日常生活を具体的にどのように送っているのか出来る限り詳しく説明する。また拘束解除がどの程度進んでいるのか、身体拘束解除に向けての目標など説明し、家族自身の不安の軽減を図っていきましょう。面会時には患者の状態を伝え、不安に思っていること疑問に思っていることを確認し、必要時説明する。
 家族自身も患者の症状に疲弊していることが多い。患者が拘束治療を受けていることなど、身内にも言えず家族で抱え、悩んでいることも多い。家族が困りごとや不安が言えるような場を提供できるように日々のなかで声かけしていく。家族をねぎらい、ゆっくり休んで欲しいことを説明する。家族の疲労が回復することは、患者に関わる気力の回復につながります。
 


行動制限最小化委員会の活動

 2004年の診療報酬改定で「医療保護入院等診療料」の施設基準として行動制限最小化委員会が義務付けられ、以下のことが義務付けられている。
① 行動制限についての基本的指針の整備
② 措置入院、緊急措置入院、医療保護入院および応急入院の患者の病状、院内における行動制限患者の状況に関わるレポートをもとに、月1回程度の病状改善、行動制限の状況の適切性および行動制限最小化の検討会議を開く
③ 精神保健及び精神障碍者福祉に関する法律による、保険医療機関における精神科診療に携わる職員すべてを対象とした、隔離拘束の早期解除および危機予防のための介入技術等に関する研修の年2回程度の実施。